京都産婦人科研究会 平成13年2月 研究会記録




HPVと子宮頚癌   
滋賀医科大学 名誉教授 吉田 吉信


 

1、    発ガンのプロセス
  • ガンは複数段階を経て進行する(multiple carcino-genesis):DNAの構造変化と発現異常の積み重ねで、より悪性のガン細胞へ成長する。一方、発ガン物質の解毒、DNA傷害の修復、免疫監視があり悪性化を抑制する。
  • ガンは1個の細胞に起源する。
  • ガンは長時間を経て出現する(ガン細胞は10−9 g(1ng)、30回分裂して1g、あと症状の出る迄時間は僅か)
  • 発ガン物質はDNAに結合し、mutationを起す。
    (一方、DNA上の傷は修復される):initiation

    発ガン物質の代謝活性化
    DNAと結合 DNA修復エラー
    突然変異
    ガン遺伝子活性化
    発ガンpromotion
    遺伝子変化
    ガン細胞
  • かか発ガンpromotionはsignal伝達と遺伝子発現を撹乱する。(変異細胞をクローナルに増殖させる過程)。
  • ガン細胞の形質は進行的に悪くなる。:progression「抑制遺伝子の欠損、ガン遺伝子の活性化――染色体レベルの異常:aneuploidy」
  • 発ガンの3段階 initiation(初期化)、promotion(促進期)、progression(進行期)

(註)transformation(培養細胞の特性としての用語)
@ 無制限増殖能(不死化):inmortalization(protein kinase活性化に依る)
A 接触阻止現象の喪失:contact inhibition(loss of contact inhibihon)
B 足場(基質)依存性喪失:anchorage independent growth(loss of ddepenaent growth)

2、ガンウイルスについて

 virusは最も単純な生命体で、自らと同じものを作る最低限のプログラムと、virus粒子形成のための遺伝子を持つのみ。それに必要なものはすべて寄生した細胞のものを使用する。

自らの繁殖のため細胞に寄生するのであるが、多くのvirusはその細胞を殺す(virus病の基本的原因)。
ガンは細胞増殖が基本だから、その細胞を殺さないのが大原則であることと、ガン細胞は子々孫々の細胞もガンでないと病気としてのガンにはならない。故にガン細胞を規定する因子は遺伝的なものでなければならない。即ち細胞のDNAに変化を起す。つまりvirus遺伝子の宿主細胞DNAへの組み込みである。

 ガンvirusはその遺伝子がDNAであるか、RNAであるかに依って分類される。RNAvirusはretrovirusと呼ばれる。逆転写してDNAに変換し、それを宿主DNAに組込んで増殖するのでretroという。
Retrovirusは細胞膜を被膜として出芽してvirus粒子を形成するので細胞を殺すことはない。一度感染するとvirus遺伝子が組込まるので宿主からその遺伝子はなくならない(発ガンretroviusの例にATLvirusあり)。

 DNAvirusは細胞に感染すると大量の子孫を作り、細胞溶解を起して、それらが放出するので細胞は死ぬ。だから増殖能は宿主ではガンを起すことはないように思われる。しかし、virus遺伝子の一部に変異や欠損が起こり増殖不能になると残った遺伝子の作用で細胞はガン化し得る。又、virus増殖と細胞破壊をくり返すと宿主は不足した細胞を補充すべく新しい細胞増殖を行う。この反復がガン化の原因を作るとする考え方もある。(DNAガンvirusの代表はEBV(Burkit eymphoma鼻咽頭ガン),HBV(肝ガン),HPV)

 子宮頚ガンとHPVの関連を見出した最初は、1983年Zur Hausenで頚ガンにHPVの組込型DNAを発見した。疫学的研究に依れば子宮頚ガンにかかわる16型、18型HPV感染は性交渉によるものと考えられる。HPVの特定遺伝子E6、E7を組換えDNA技術で線維細胞に発現させると増殖は促進され細胞はinmortalizeされる。
HPV単独では直ちにガン細胞は出来ない、他にpromotorが必要である。

3、    HPVについて

 小型DNAvirusで直径50nm、正20面体。DNAは環状2本鎖。分子量5.0×106Dalton。約8.000塩基対(bp)から成る。VirusDNA間の塩基配列の差やvirus粒子の抗原性の差でtype分けが行われ現在70亜種ある。

 Virusの完全な繁殖は上皮のごく限られた分化期の細胞でのみ可能であり、培養細胞を用いてvirus増殖は出来ない。子宮頚ガンの80%以上の組織にHPV―DNAが認められ特に16型、18型が多い。又、そのDNAの初期遺伝子(E6、E7)中に培養細胞を不死化する能力や株化細胞をtranformする能力がある事が明らかになった。

 HPVの遺伝子構成には、virus増殖の時期に依って3つの領域がある。初期遺伝子領域(E)と後期遺伝子領域(L)と、その上流に位する遺伝子発現の調節領域である。

4、    ガン化に関与するHPV遺伝子

 HPVはlow risk typeとhigh risk typeとがある。培養細胞をtransformするのはHPV16、18基等のhighrisk型で、6、11型のlowrisk型にはその能力がない。16型、18型のガン遺伝子はE6、E7である。E6はP53蛋白の分解促進により、その機能を障碍し細胞周期のG1で止めるのを阻害したり、apoptosisを抑制したり、テロメラーゼの活性化を起す。E7はRb蛋白の機能障碍を起し増殖活性を持続させる。(P53蛋白やRb蛋白はガン抑制遺伝子産物である)

 動物、ヒトの線維芽細胞や上皮細胞などの初代培養細胞にHPV遺伝子を組込むと細胞の寿命延長や不死化が起る。これにはE6、E7の遺伝子が関与し、ラット胎児細胞の不死化ににはE7が、ヒト表皮keratinocyteの場合にはE6、E7の両方が必要だが真のtransformationは更に細胞側に何らかの変化が起る必要がある。

5、HPV感染後のガン発生過程

 悪性型HPVが感染し、virus遺伝子(E6、E7など)産物によって細胞側の増殖制御機構が乱され、細胞増殖の亢進などが加わり良性腫瘍が発生するものと考えられる。

 その后、長期に亘り潜伏中に感染細胞に種々の変化が加わり一部の細胞で先づ細胞レベルでの悪性化へのprogressionが起り、次いで生体の免疫監視様構をくぐり抜けた細胞によって生体レベルでのガン化が成立するものと推定される。

<子宮頚ガンのHPV陽性率>
 1983年Zur Hausenが扁平上皮ガン組織中にHPVgenome(16型)を確認し、その后18型も認められた。

 現在では 扁平上皮ガン及びCINの90%以上
     頚部腺ガン では  76%(腺ガンでは18型が多い)

註:CLN=Cervical intraepithelial neoplasia(病理組織診)
SIL=squamous intsaepithelial lesion(細胞診推定病変)

<CINとHPV>
ある施設(USA)  年齢25〜29  年齢>50
CIN 2.3%  CIN 1、2  2.2%

2.6%

0.9%

CIN  3    0.2%:年齢35〜39でピーク0.5%
◆◆
Canada

HPV(+) 
疑いのあるLSIL

年齢20〜24 
6%

年齢>34 
2.6%

USA一般婦人 HPV(+) 15〜20%
日本人一般婦人

    10%

・ 滋賀県集検 Va以上0.45% ガン発見率0.04% 医療機関1.1%

0.08%(平成8年)/35,000件

・ 大阪府(H,11医師会)細胞診
計 412,345
Va6.100(1.48%) W229(0.056%) 保留267(0.06%)
Vb 672(0.16%) X431(0.10%) 要精検7,432(1.8%)
Kentucky(USA) pysplasia 195/10万人(0.2%) CIS 38/10万人(0.04%)
SEER(USA) CIN3   白人31.5/10万人 黒人  31.2/10万人
Australia CIN1   (1978)0.6% (1988)5.6%
CIN2.3の年齢低下、ピークは25〜27才(10台〜30台に多い)
(1950年台)25才以下のdysplasiaは稀でCIN3は35〜40才に
多かった。
Israel  ユダヤ人は昔から頚ガン少なかったが現在はCIN,Ca等々↑
1960〜1966 2.7/10万人、1972〜1976 4.6/10万人
USA smear(−)の241例につき2年后HPV(+)の28%、
HPV(−)の3%にHSIL
SIL     200例につき2年后HPV(+)になったもの100%
(註)CIL1はHPV感染による組織反応、CIN2、3はHPV DNAの組込みあり
   それぞれ5%、16%(なお癌の組込みは90%)

 

<妊婦のHPV検出率>
(Hybrid capture法による前田の成績(2000年)):若年者不顕性感染多い
HPV型

全 例

20才台
前半

全 例

20才台
後半

良性型

 4.3%

10.5%

10.2%

20.0%

悪性型

12.2%

26.3% 

33.9%

40.0%

既 婚  

未 婚

参 考
クラミジア

2.6%

5.3%

16.9%

33.3%


<子宮頚ガン検診>
・細胞診にHPV感染を加えて精度管理(Bethesda system(1988)が1991年に
 USAで採用)
UbとかUrとしていたものをASCUS(atypical squamous cell of
 undetermined signification)の分類を加えた。
・ HPV検査を導入することでcolposcopyやhiopsyを減らす経済効果あり。
・ 細胞診の自己採取は不可。HPV検査は自己採取OK。
・ CIN1、2では6ケ月后にHPV検査を行いhighrisk型なら専門医へ。
  CIN3は既にhighrisk型と考えられるので直ちに専門医へ。
・ CIS診断される10年以上前からhighrisk(+)は(−)に比し30倍以上CIS発生
 リスクが高い。

<HPVワクチン>
 予防的:HPV粒子の中和で感染予防、外殻蛋白L1、L2蛋白に対するワクチン
 治療的:HPV感染細胞に攻撃、E6、E7蛋白に対する細胞性免疫でガン細胞増殖を↓



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