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バイオと環境

京都大学名誉教授
(株)グリーンバイオ 代表取締役  木村 光 先生
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 本日はお招きいただき有難うございました。バイオ関係のことなら何でもいいから私のやってきたことでも話をするようにということですので、自己紹介を兼ねてお話させていただきます。私は1959年に大学を出まして、2000年に退官しましたので、丁度、20世紀後半の生命科学の発展期に研究生活を送ることができました。これは研究者として誠に幸運であったと考えております。
科学的インセンティブ
私は、今、ご紹介がありましたように昭和34年に大学を出まして、シオノギ製薬の研究所に入りました。当時は、ステロイドの酸化発酵が盛んなときでした。それはステロイドの11位に水酸基(-OH)を入れるとリウマチなんかに効くということが分かったからです。有機合成すると20数段階かかるということで、一段階の収率が90%でも、2段階になると九九81%、3段階になると八九72%で、もう収率ががたがた落ちてきます。その点、微生物で変換しますと一発で水酸基が入るということで、当時、微生物変換が盛んでありました。この辺の研究は、もう時効になったからいいだろうと思いますが、原料はエス物質(compound S)といいましてメキシコの芋から取ったステロイド核を持った物質です。この酸化過程を結晶発酵といいます。普通の発酵は糖が原料で水溶液の中で反応が進行します。代表的なものがアルコール発酵です。ステロイドは水に溶けませんから、粉のままの原料で、粉から結晶を作るという非常におもしろい発酵です。この研究は、もう亡くなられました増尾さんという方が発見されましたので、どうしてそんな事が分かったのですかと聞きましたら、始めは原料を薄い濃度で入れていったが、原料が全部消えてしまうというわけです。そこで、原料をどんどん入れていったら、5gとか10gとか入るようになって、初めてスポットが見えてきたというわけです。実際、私も生産現場を見せてもらいましたが、女性が一人やっていました。坂口フラスコでがたがたやりながら、原料の粉から結晶が出てくる反応を顕微鏡で追跡するのです。ですから、特許を出しても単位を間違えたのではないかと送り返してきたということです。他社が大きな発酵タンクでやっていた生産をフラスコでやっていたのですから、これで会社はものすごく儲けたと思います。
私はこのエス物質を基質にして、それに二重結合を入れたり、更に、パイロットプラントでの微生物の代謝研究などを行いました。
それから、抗生物質をやりました。当時は終戦後14年ぐらい経った時期で、どこの会社もアメリカから抗生物質の技術導入をしていました。抗生物質というのは抗菌性だけでいくものですから、化学物質、化学構造としては何が入ってくるかわからないというのが問題です。有機化学の人と一緒に仕事をやっていると構造が先だということで、構造か抗菌性かということでいつも論争をやっていました。後で分かったことですが、私のやっていたシオマイシンという抗生物質はものすごく複雑な構造でした。今ではいろいろな機器分析が盛んですから、構造決定も簡単ですが、当時は炭素一つに決めるのに一年かかるというような時代でしたから、あんな化学構造に取りつかれていたら大変なことになっていたと思ってぞっとします。
微生物の立場からいうと、抗生物質の研究にはいろいろテクニックが必要なので、修練には非常にいい材料だと思います。ただ、既にその当時からOHが縦に付いてとか横になっているとかいう細かいレベルになっていましたから、これ以上、新物質を求めても新しいものが出てくる可能性はほとんどないと思いまして、これは早く逃げ出さないといけないと思いました。ただ、やらせる方の論理は「自然界にはまだ絶対良い抗生物質があるに違いない」という論理できます。そうすると、その論理を破るのはなかなか大変です。「最早や理想的な新物質は、絶対にありません」ということを言い切れないからです、これは絶対に。ですから、結局いまだに世界中で新物質の探索を止められないのです。
当時、製薬各社では社員があっちこっちへ行ったら、土を持ち帰って来いということで、そこから放線菌を分離して、新抗生物質を探していました。当時、武田製薬では良い物質が出たら土を取ってきた人に100万とかの賞金を出したので、みんな真剣になって土を取りに行ったということでした。ところが他の会社ではそんなことはなかったので、みんな遊び半分で遠足に行ったつもりでやっていました。だから、武田というのはやはり当時から、社員にインセンティブを与えるという意味ではやはりすごいことをやっていたのだなと思います。最近では社員にインセンティブを与えることが一般的になりつつあります。
 特許でも、今、四国の中小企業にいた中村さんという方が、現在アメリカの大学の教授になって、特許権の論争をやっています。今までは特許でいいものを出しても会社のものになっていたのですが、これからは発明した人にも利益を分配すべきだというものです。中村さんは2万円ぐらいしかもらわなかったが、会社は何十億円も儲けているのだから、少なくとも20億円ぐらいよこせという裁判です。だからやはり世の中がだいぶ変わりつつあるなと思っています。
生物学的な考え方
抗生物質は抗菌性で追跡しますから、構造も分子量も分かりません。ですから、みんな何mg/ccのレベルでいくわけです。そうしますと1mg与えて抗菌性があったといっても、化学構造が決まってから分子量が2倍違えば同じ1mg与えても分子としては半分しか与えてないわけです。当時、分子生物学ということが盛んにいわれるようになって来ていましたので、そういう意味では構造というものを考えて、細胞一つに対して何モルの抗生物質が効いていて、その作用があるというべきで、そういう意味ではやはりグラム単位ではだめだなと思いました。
 それから、抗生物質の場合は初めて土から微生物を採集してきた時は、極微量しか生産されないが、菌株改良を進めると生産量がどんどん増えてきます。ですから、天井知らずで生産が向上するので、収率というものがないわけです。その点、化学の場合には理論式があって、そのとうりの収率が得られたときが収率100%ということになります。会社の研究所では専門を異にする研究者が一緒に働きますから、違った考え方を吸収する事ができます。同じ定量的というのでも生物屋が使う定量的という言葉と化学屋さんが使う場合では意味が少し違う場合があります。化学屋さんは理論値100%で反応が進んだとき定量的にいったといいます。一方、生物屋の方は、常に同じような反応経過が得られるようになったとき、反応が定量的に行くようになったといいます。それは生物的な反応は常にすごくばらついて、一定になる結果を得るのが困難だからです。ですから、同じ定量的という言葉を使っても化学屋さんが使う言葉と生物屋が使う言葉というのが違うということがある訳です。始めはそんな事はわかりませんから、議論していてもかみ合わないのです。「定量的にいくようになったというけれども収率が低いではないか」みたいな話になりまして、同じ言葉を使っていても、各々が意味しているところが違うということが少なくないのです。分かってしまえばなんでもないことですが、なまじっか近い分野ほど厄介な事が起こります。
自然を見る目
一般に、ハッピーな人は考えないといわれます。ハッピーでないといろいろ考えるわけで、大体、大哲学者とかいうのはみんなあまりハッピーではない人がなるといわれます。

「自然界にはまだ有用抗生物質があるに違いない」という論理をなかなか論破できない。これはやらせる方の論理、会社の論理ですが、やるほうの論理はもういいかげんにやめさせてくれということで、これはいろいろ考えました。結構それが、その後の食品の安全性とかいろいろな問題を考える際に役に立ちました。丁度、テレビで人間大学をやった時も、その事が問題になりましたが、以前に、“自然界に有用物質はあるか”というようなことを考えていたので、「安全というものは証明できない」という結論を容易に得ることができたのです。
 今、科学万能の時代で、月までロケットで人を飛ばしたりいろいろできますけれども、できないことも多いのです。科学にはものすごく得意な問題と不得意な問題があって、月に人間を送り込む事はできても、ここからパッと紙を飛ばしてその落下地点を確定することは絶対にできないという。それは科学が不得意な問題だからです。
 生物的な仕事には科学が不得意とするものが多いわけで、食品の安全性なんかも科学が不得意な問題だろうと思います。本日は、医学関係の方が多いのでLD50なんかもお使いの方が多いのではないかと思いますが、これは科学的には訳の分からない話なのです。
 科学的な立場からいうと、いくものならいつもいく、いかないものならいつもいかないのが正しいのであって、10匹いるネズミのうち、5匹は死ぬけれども、5匹は生きているというのは本当に考えてみたらものすごいいいかげんな話なのです。ある物質を、非常に低い濃度でやれば全部生きている。高い濃度でやれば全部死ぬ。これは分かるのですけれども、途中で5匹だけ生きているとか、100匹のうち50匹生きているというのは科学にならないのです。ただし生物の場合はそういうことが多いので、これは化学屋さんがなかなか理解できない話なのです。
 しかし、生物の問題では、そういう話が多くて、例えば人間の寿命なんかもそうです。疫学調査をやるのですが、影響する因子が多すぎるせいだろうと思われます。物理なんかはやはり科学が得意な問題なのです。スカッと割り切れるというか、鉄の玉を落とせば確実に何秒でガリレオがやったように地上に落下するのですけれども、紙ではそうはいかない。それは影響するファクターが多過ぎるということなのです。空気の抵抗があるとか、風が少し吹いているとか、そういうことで結局、どこへ落ちるか分からないのです。そういう問題に結論を出すには、実験回数を増やすとか確率でいくしか仕方がないのです。ですから、薬理の生物実験では統計処理なんかをします。
 酵母のセックスの実験なんかも、ばらつきが多くてなかなかすっきりいかない場合が多いようです。余談ですが、普通は遺伝子DNA を入れる方がオスで、貰う方がメスなのですが、酵母の場合はどちらも単細胞ですからどっちがDNAを入れているのか分からない。雄か雌か分からないのです。ですから、オス、メスとはいわずに、A, α、といっています。クローン動物の調製も何分の一かの小さい確率でしかいかないといわれますから、確率勝負の話になってくるようです。
アメリカ的合理精神
当時は各社ともアメリカの技術を導入する時代で、シオノギではアメリカのリリー社からアイロタイシンという抗生物質の生産技術を導入したわけです。新しい生産設備を建設して運転するので手伝いに行けということで研究所から手伝いに行きまして、徹夜でよくやったのです。50tタンクになりますと、抗生物質生産の培地代だけで、当時で100万円といわれました。公務員の初任給が1万円ぐらいでしたが、発酵タンクに雑菌が入ると100万円が飛んでしまうわけです。発酵関係の先輩らに聞くと、新しく発酵タンクを作ったときは連続汚染は当たり前だというのですけれども、会社のほうも初めてで、100万円ずつ流すものですから、周囲にいる人もまたあそこで100万円流しているという話になって、とうとう会社の方も痺れを切らしてアメリカから工場長を呼んできたのです。
 ステファニーヤックというすごく大きな男でした。とにかく靴を見て吃驚しましたが、僕らの靴よりも倍ぐらいの大きな靴を履いていました。日本の工場長というのは機械の操作などは自分でやらないのですけれども、彼は自分でバルブ操作から全部やったのです。アメリカでは部下にやらすことは全て自分ができないといけないということでした。
 私も独身でしたから社員寮に泊まって、彼と一緒に1カ月ぐらい仕事をやって、アメリカ人の合理精神をいろいろ教えてもらいました。今でも思い出すのは、顕微鏡のことです。当時は単眼の顕微鏡が一般的で、5万円ぐらいでした。双眼になると35万円ぐらいしました。ステファニアックは直ぐに双眼顕微鏡を買うことを提案しました。「35万円の顕微鏡で汚染を見つけたら、100万円の培地代が助かる」というわけです。
 アメリカ人はよく転職しますから。そのときに会社の秘密を持ち出したらどうなるか聞いたことがあります。3年間秘密保持を義務付けるということでした。3年間経ったらもう喋ってもいいということのようでした。3年経つと知識が古くなるので、会社が3年前の知識でやっているようでは駄目だということでした。最近では、日本の会社でもそれが1年になっているようです。
 日本では終身雇用、年功序列などがあります。その関係で会社は愛社精神を要求します。社員も忠誠心を示さなければいけないということで、必ず自社製品を使います。ところが、アメリカの自動車会社の社員駐車場は他社の車も含めてもうばらばらなのです。他社の車がいっぱいあるわけです。あるテレビ番組で、日本のアナウンサーがインタビューをして、「あなたは自社の車に乗っていないのですか」と聞きましたら、向こうの人々には何の意味か分かりませんでした。「自分の金で買ったのだから、何を買おうといいではないか」というわけで、これは非常におもしろいなと思って私は見ていました。これまでは会社も丸抱えしてやるから忠誠心を示せということだったのですけれども、これからはやはり社員のほうも自らを磨いてやっていくというような時代になってくるだろうと思います。だから、雇用形態もかなり変わってくるでしょう。それに加えて、資格の時代といわれてますが、どこへ行っても通用するようにやっていかないといけないという感じがしております。これからは、日本の雇用関係もだんだん変わっていくだろうと思っています。
京都大学に移って
1969年に京都大学に食品工学科が創設され、講師で移ることになりました。丁度、分子生物学、バイオテクノロジーの時代に入り、コーエンとボイヤーが遺伝子組み換え技術を開発した時で、私らは、生きた酵母細胞への遺伝子導入技術を開発しました。遺伝子組み換えというのは、基本的にいうと、タンパク質はみんなアミノ酸がアミド結合で並んでいますから、タンパク質のアミノ酸に相当するDNAを作れば、そのたんぱく質が全部作れるということで、これはものすごい技術なので絶対にやらないといけないと感じました。
 1978年にヴィスコンシンで国際会議が開催されましたので、私も出席しました。関西の大学から行ったのは私だけだったと思います。会社からの人が2、3人来ていました。東大からは池田先生、矢野先生が出席されました。この国際会議は4年ごとに開催されるもので、その次の、1982年の会議を日本(京都)で引き受けることにしました。そうする事によって、わが国に遺伝子組み換え技術を導入する事ができると考えたのです。私が事務局を引き受けることになりましたが、果たして、日本から開催国に相応しい研究成果を出す事が出来るか大分心配しました。開催決定から2年間は、音なしの構えでしたが、1980年ごろから日本でも研究成果が出始めました。私らも新しい酵母の遺伝子組み換え法を発表しましたが、これが後に、20世紀、100年間の被引用回数で世界のランキングで歴代2位に入りました。私は会社のすごさが分かってましたから、システムもなし、金も無い大学でどうしていくか考えました。それでそのときに狙ったのは、これは非常に正解だったと思うのですが、グルタチオンを狙ったのです。
 グルタチオンというのはトリペプタイド(Glu-Cys-Gly)です。ただし、グルタミン酸とシステイン間の結合が普通のα−結合ではなくて、γ―結合です。グルタミン酸はOHが2カ所にあり、α―でつながったものは活性がないのです。γーのカルボキシル基が隣のシステインのNH2につながって初めて活性が出る。そういうところを狙っていた研究室は他には無かったのです。他のところは全部α―結合を狙っていたので、私どもがγ―結合を狙ったのは、非常に良かったのです。グルタチオン生合成系の二種類の遺伝子を取りましたら、カルジーン社からその遺伝子を譲ってほしいといってきました。カルジーン社は、その後、おいしいトマトを作って有名になりました。このトマトをキリンビールが技術提携して作るといっていましたけれども、今は反対が多いのでそのままになっています。
 当時のカルジーンは丁度ベンチャーで立ち上がったところだったので、始めはグルタチオンの遺伝子を植物に導入する事を考えていたようです。グルタチオンはトリペプタイトですから、二つの酵素(酵素1と酵素2)でトリペプタイトができるわけです。私どもは二つとも取りましたら、その二つを譲って欲しいといってきたのです。
 京都大学は国立だからものを売るわけにはいかないので、差し上げました。商売はできないのであげますと言ったのです。そうしたら、向こうは、遺伝子を取得するには金も労力もかかるのだから、もらうわけにはいかないので金を出すといってきたのです。これは時効になったからいいと思いますが、その当時のお金で、500万円出すというわけです。500万円は結構今でも大金で、今、私に500万円出せといわれても困るなと思うのですが、そういう点ではアメリカの企業精神というのがやはりすごいなと思います。
 私も研究室ができたところだったので、500万円はありがたいなと思って、事務関係に相談しましたところ、早く拒否せよといって来たのです。事務関係者にいわせるとややこしい500万円は要らないということでした。何でかというと、そんなベンチャーの金というものはややこしいと。必ずどこからもらうかチェックするのです。確かに彼らのいう事が分からない訳ではなかったのですが、事務の連中は本当は研究を支えないといけないのに、そんなことは思っていないわけです。先生方が研究できなくてもいいと思っているようでした。
 その時、カルジーン社が私にコンサルタントになってくれといって来ましたが、当時の日本では公務員は企業のコンサルタントになる事はできませんでした。今はもう OK になりましたけれども、当時は駄目で国家公務員法違反になりました。調べましたところ、130条第2項に1年以下の懲役または3万円以下の罰金というのがありまして、これではかなわないと思って断りました。
解糖系とオットー・マイヤーホッフ
解糖系メチルグリオキサール経路とグルタチオンの合成

この図がグルコースからのアルコール発酵で、1930年代によく知られるようになった解糖系エムデン・マイヤーホッフ・パーナス経路です。これを調べていく過程で、私どもがやりましたのは実はこの横側にこういう三つの経路がある事を明らかにしたことです。私どもはこれをメチルグリオキサール経路と名付けました。
 解糖系はエネルギー供給経路なのですけれども、このメチルグリオキサール経路は細胞増殖とかストレスに関係していることが明らかになりました。グルタチオンもここに関係しております。
  1930年代、マイヤーホッフ一派がこの解糖系のメカニズムの研究をやったのです。当時は、筋肉の乳酸生成と酵母のアルコール発酵の研究が行われていましたが、両者は全然別物と考えられていました。今でこそそれが共通だということが分かったのです。
 マイヤーホッフは、両者が同じ生理機構ではないかということに気づきまして、酵母の系と筋肉の系が共通のものである事を証明しました。このマイヤーホッフはもともと新カント派の哲学者だったのですが、あの有名なワールブルグに誘われて生化学の分野に入ったのです。ですから哲学思想の背景があって、そういうふうに気づいたのではないかと思われます。
日本のサイエンスは開国以来外国に追いつけ追い越せということで技術論だけでやってきたものですから、そういう哲学的背景が非常に不足していて、今やトップに踊り出たけれども何をしていいか分からないというのが現状ではないかと思うのです。欧米の教育をいろいろ聞いてみるとやはり向こうの連中というのは全部ギリシャ以来の哲学というか考え方、そういうフィロソフィーにのっとってサイエンスをやっているから、次々に発想が湧いてきて枯れる事がないわけです。が、日本は技術論だけでやってきたので、独創性がなかなか出せないのではないかと思っております。
 そういう意味で私はこのマイヤーホッフという人に興味を持って、ずっと調べてきました。彼はドイツ系ユダヤ人で、ドイツの古典や文学にも造詣が深かったのですが、ナチスの手を逃れて、アメリカへ亡命しています。
 1933年にナチスが政権を取りましたので、ユダヤ人は34年、35年頃にみんな逃げ出したのですが、マイヤーホッフは38年までドイツに留まったのです。よくいたなと思いますが、マイヤーホッフはまさかホロコースト(虐殺)までいかないだろうと思っていたようです。その上、その当時、彼は一番ハッピーだったのです。ハイデルブルグのカイザー・ヴィルヘルム研究所では優秀なスタッフに囲まれ、研究が一番進展していたときでした。ところがいよいよ情勢がおかしくなってきて、逃げ出そうとすると彼は有名人300人リストに載っていたため(息子のウオーターによると、200人とのことですが)、脱出が困難であった。彼は誰にも言わずに、何となく研究室を出て、パリに逃れ、そこからマルセイユに逃れた。そこから、ボルドーへ出て最後の船でロンドンに出る予定だったが、それに失敗した。マルセイユでは、ロッシュ博士の計らいで、ピレネーを徒歩で超えて、スペインに逃れ、そこからアメリカに渡って、ペンシルバニア大学の教授になりました。彼の事はいろんな意味で面白いので、私の趣味でいろいろ調べています。機会があればお話したいと思います。
科学的思惟
酵母を選んだ理由はこれが真核細胞であるということと、遺伝学がはっきりしているためでした。放線菌もおもしろいのです。放線菌は菌体成分はバクテリアで、形はカビです。放線菌の生産物はバクテリアの生産物とカビの生産物が結合してしているようなものが多いのです。ですから、バリエーションがものすごく多いのです。ただ、やはり酵母は遺伝学がしっかりしていますから、将来的な発展が容易だと考えたのです。ですから、大学へ戻ってからは酵母中心に研究をやったわけです。
 この図にありますマグロの成長ホルモン遺伝子のクローニングは大洋漁業との共同研究でやったものです。この時、マグロの養殖を奄美大島まで見に行きました。ちょうど体重70kgでこれが一匹100万円といわれました。これらのマグロを成長ホルモンで処理すると早く大きくなるのです。
 魚というのは進化の過程でちょうど人間の半分ぐらいと思われます。具体的にヘモグロビンでいいますと、ヘモグロビンはアミノ酸が140個ぐらい連なっています。馬とか、ほ乳動物は大体20個ぐらいの違いで、残りの120個は人間と一緒なのです。魚になりますと大体70個、半分ぐらいが一緒で、半分ぐらいは違うのです。この、半分一緒、半分違うというのはどういうことかといいますと、70個のアミノ酸配列が我々とマグロは一緒なのです。アミノ酸は20種類ありますから、順列組合せで、ジペプチドの種類は、20×20で、400通りです。三つになると20×20×20、8,000通りになります。このように考えて、70個のアミノ酸配列が同じになるという事は、天文学的に小さな確率になるわけです。ですから、自然界で人間とマグロの成長ホルモンが独立に偶然一緒になったということはほとんどありえないことなのです。別の言い方をすると、これは20面体のサイコロを70個振ってバシャッと結果が同じであるという確率ですから、もうそういうことは起こりえない確率なのです。それではこの現実をどう考えるかといいますと両者は元もと同じものから由来したと考えると合理的なわけです。

チトクロームCタンパク質のアミノ酸置換進化
┗┳━━┳━━━┳━━━━┳━━━┳━━━┳━━━┳━━━┓
酵母   小麦 ミツバチ カエル マグロ ニワトリ ウマ  ヒト
89.6
86.5
81.3
81.3
74.2
67.0
56.7

      
これは成長ホルモンと同じ事をアミノ酸配列104個のチトクロームCに就いて行ったものです。チトクロームCという共通のタンパク質のアミノ酸配列を調べてみますと、人とか馬とかこの辺の違いは20%です。即ち、ホモロジー(相同性)は80%です。酵母、小麦なんかでも、56%一緒です。これは100個のうち50〜60個のアミノ酸が同じだということです。ですから酵母とか小麦なども決して、人間と独立にたまたま自然界で独立して出てきたのではないのだと、もともと一緒だったのだということが分かってきました。
結局、20世紀のバイオテクノロジーの一番大事な結論は、地球上に生存している全ての生物は同じ起源をもっているということです。実はオリジナルは全部一緒だということがはっきりしてきたということです。
 従来のキリスト教の教えでは、人間だけが特別な存在であるといわれたのですが、その論理が崩れたわけです。だから地球上に生存する植物も動物も全部元は一緒だという事です。
生命の歴史46億年
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
46

























































   
12
3日 10日 14日 18日 20日 27日 31日










  
12月 31日 0時 12時 24時





使








23時59分
0秒 40 57 60秒










太陽の寿命は100億年と言われています。今は地球ができてから46億年といっていますから、ちょうど半分ぐらいです。あと56億年ぐらいすると、太陽が死にますから、そうしたら全部暗黒の世界になります。だから、ナッシングになるわけです。今までは46億年経っているのです。これ一番上のスケールがそうなのです。現在が46億年。この46億年を1年に圧縮したのがこの図なのです。46ですから48にすると12で割れますから、大体1カ月4億年ぐらいの勘定をしていただけばいい訳です。1月1日に地球ができたとして、生命の誕生が大体3月から4月ごろ、ここで真核細胞が出て、酵母が9月ぐらいというわけです。微生物の研究発表をすると、「大腸菌でできたら酵母はどうですか」と聞かれるのですけれども、大腸菌から酵母まで、これ4月から9月まで6カ月あるわけで、1カ月が4億年として、24億年ぐらいかかって、大腸菌から酵母に進化しているわけです。ですから、生命が発生するのに、3カ月だから、3×4、12億年ですむのに、大腸菌から酵母になるのに、24億年、即ち、倍ぐらいかかっているわけですから、大腸菌でいった場合にも、すぐには酵母でいかない場合もあり、とにかく両者ではこれだけ違いがあるということです。
このカンブリア紀の大爆発というのは、実際の爆発ではなくて生物の種が多様化した事を象徴的に表現しています。11月の半ばごろですから、大体6億年前ぐらいです。この12月を日のスケールで表したのがこれなのです。両生類が出てくるのが12月の3日ぐらいで、は虫類が出てくるのが10日ぐらい。昨今ジュラシックパークというのが有名になりましたが、あれも12月の14日ぐらいで、恐竜の時代というのは討ち入りの頃だというわけです。始祖鳥、ほ乳類は12月27日ぐらいで、人類が出てくるのは12月31日の12時前。除夜の鐘の直前です。
この様なことがバイオテクノロジーとか、分子生物学の成果として明らかになってきたのです。
論文の被引用回数について
アメリカ微生物学会は100年の歴史があります。1899年に創設されまして、100年間でいま10冊ぐらいジャーナルを出しています。100周年を記念して、この100年間に発表された論文の被引用回数のランキングを50位まで発表しました。その中で、私どものの論文が歴代2位に入りまして、私自身もびっくりしました。
 これはどういう論文かといいますと、初めて酵母の遺伝子を生きた酵母細胞に導入する方法論です。微生物に酵母を選んだということが良かったのと、酵母の遺伝子組み換えを進める方法が無かったので、ものすごく多くの人々が使ってくれたというわけです。それに加えて、ハッピーだったのは、私が2000年に定年になったのですけれども、1年前の1999年に100周年記念でこの統計を取ってくれたことです。このときに3,462回引用されています。私が定年になった時に助手の一人が調べてくれたら4,000回を超えていますということでした。
 一般に500回以上引用されている論文は、全体の0.02%ぐらいといわれます。ですから、4,000回ぐらい引用されているのはかなり威張っていいのかなと思っています。
最近の大学は独立法人化するということで、被引用回数とか、タックス・ペイヤーや他の研究者に役に立つ論文を出さないといけないといわれるようになりましたので、結構、引用、Citation Index が重要視されるようになってきました。従って、「こういう論文があると、大分、違いますね」とみんなにいわれます。そういう意味では、方法論の開発がいいのではないかと思います。ですから、これからは若い人が方法論を研究するのも重要ではないかと話しています。
環境問題:バイオマスプラスチック
残りの時間で環境の話をしたいと思います。私はちょうど2000年の3月に定年になりまして、その数年前から、環境問題が大事だろうということで、何かバイオと環境を結ぶ切り口がないかと模索していました。1995年にテレビの人間大学でテキストを作った時に、初めてバイオと環境問題を取り上げたのです。
石油は化石資源で有限なので、できるだけ使わないようにして、未来世代に残す必要がある。しかも、石油は炭化水素なので、燃やすと炭酸ガスの増加をもたらし、それが地球の温暖化につながるので、それを防ぐために植物性バイオマスのプラスチック化を計る必要がある。丁度その頃(1996〜7年ごろ)、環境ホルモンという問題が出てきましたから、やはり石油プラスチックは駄目だと思いました。環境ホルモンは、若い女性の生殖器にガンを起こしたり、男性の精子数を減らしたりするほか、鳥やワニなど他の生物のメス化を助長するので、これを防ぐためにも、石油を使わないようにしようという様な運動をしなければいけないと思いまして、生分解性プラスチックというものに行き着いたのです。
その上、石油プラスチックは分解しませんので、ゴミ問題としても厄介な存在です。「ゴミは物質がその有効期間を超えて存在したもの」です。カップラーメンなんかでも、3分でできれば、後は30分かかって食べても、1時間もあれば不用になります。それが発泡スチロールなんか使っていると未来永劫に分解しないで、そこらに貯まってきます。琵琶湖とか日本の近海にもプラスチックのゴミが蓄積しています。そこで、分解性のある生分解プラスチックを使用する必要があります。石油プラスチックは、開発されてから、100年「安くて、軽くて、丈夫」という事で重宝されてきましたが、その丈夫というのが大問題で、それを分解性のあるプラスチックに変換する必要があります。つまり、今後は腐るプラスチックを作る必要があります。
始め私どもは木材を液化して、それからプラスチックらを作る事を始めましたが、木材というのは広葉樹あり、針葉樹ありで原料の品質が一定にならない上に、リグニンが多いので、環境ホルモンの原因になっている事が推測されました。 当時、学校給食の容器にプラスチックが大量に使われていましたが、環境ホルモンが出ているのではないかと疑われました。
新しいプラスチックを開発する場合に気をつけなければならないのは安全性です。PLといいまして、いわゆる安全性の生産者責任です。現在のような社会状況になると、万一事故が起こると、どれだけ補償を取られるか分からないので、やはり食品コンタクトに関係する製品は非常に怖いわけです。何が起こるか分からないということで、アメリカなんかでもそれをものすごく注意をしています。今オアシスといって花を挿す剣山代わりに利用する発泡体があります。現在使われているものは石油製品で、もともとアメリカで作っていたのですけれども、フェノールがものすごく出るので、それは危ないからということでアメリカでは製造中止になり、それは今東南アジアで作っているようです。オアシスも大分調べました。やってみると問題はありますが、製品の物性は本当によくできていることがわかります。我々がプラスチックを使うようになってから100年といわれていますが、多くの人々が寄ってたかっていい物を作っていますから、本当にいい物ができているのです。だからバイオマスを原料にして作ってみると、ある点では同じような物性のものができるようになってきたのですけれども、なかなか同じものができないということがあります。
今、この生分解性プラスチックとして、数種のものが在ります。一番先行してきましたのはポリ乳酸で、トウモロコシから作ったものとして、既によく知られています。カーギルという穀物会社とダウケミカルが一緒になって作った、カーミル・ダウ・コーポリマー社が年産14万トン供給できるといっています。次いでデュポン社のバイオマックスが年産10万トン、現在のペットと同じ製造設備をつかえるので、必要ならば、50万トンでも生産可能だといっています。その他、BASFのエコフレックスが8千トン、イーストマンケミカルのイースターバイオが1万トン、イレ社のエンポルが8万トン、供給可能といわれています。これに対して、我が日本の島津も結構、早い時期からポリ乳酸の生産をやってきたのですが、生産量は300トンぐらいといわれます。生産量との関係もあり、1キロ2,500円ぐらいで出発して、いまでも5〜7百円ぐらいします。この他に昭和高分子社やダイセル社などの生分解性プラスチック原料が知られていますが、外国に比べて、日本の会社の生産量は少ないので、値段が下がらず、一寸苦戦状態です。すでに、新聞などでご承知かと思いますが、今度、この島津のポリ乳酸をトヨタが買い取りましてトヨタがやるということになりました。トヨタが乗り出してくれたら日本という立場からいいますと心強い限りです。
 原料面から見ますと、この様に我が国の現状では、甚だ心細いので、日本の場合は用途開発をして、何か良い物を作って、用途特許で勝負していくのが一番いいのではないかなということを言っているわけです。
 このような背景の下で、私共は生分解性プラスチック原料の用途開発プランナーとして、いろいろ工夫をしております。私どもは石油を使わないで、生分解性のプラスチックを使うようにしようという主張というか運動をしているわけです。幸か不幸か、今年は天候異変で、梅雨の前に台風がボンボン来ました。これは太平洋高気圧の位置が変わってきたとかで、ヨーロッパでも美しき青きドナウ川が氾濫しているとか、ドレスデンが大変な洪水であったと報道されています。ただ、どこもかしこも雨が降るわけではないのです。一方でものすごく大雨が降れば、片一方はものすごく干上がるわけで、中国は干ばつだといわれます。それで地球上のバランスが取れるわけです。お陰で、一般に地球環境問題に対して、一般の関心が高くなってきたように思われます。とくに、この8月はものすごく、燃え上がってきまして、今日は31日ですけれども、8月中の講演は5回もありました。しかも、皆さんが熱心に話を聞いていただけます。生分解性プラスチックという言葉自体も、以前と違って、何の説明もなしに使えるように普及してきました。
ごみ問題と環境について
分解しないごみの問題で琵琶湖でも困っているのです。そのためもあってか、滋賀県はものすごく熱心なのです。数日前も滋賀県で講演をしています。今年の初めには市民フォーラムがありました。たぶん、琵琶湖だけではなくて日本の周辺の海も、こういう分解しないプラスチックが一杯たまっているわけです。台湾とか中国では捨てたプラスチックが、人工衛星からでも見えるということで法制化するのではないかといわれております。
 琵琶湖と同様に、瀬戸内海もプラスチックが一杯たまっているでしょうから、今後はこれが大問題になってくるだろうと思います。
 ごみというものは有効期限が切れてなおかつ存在するものです。いつも言うのですが、カップラーメンを考えてください。カップラーメンは3分あったらできます。どれだけ遅い人でも30分で食べれば、1時間すれば容器はもう要らない。ところが、それが捨てれば未来永劫に腐らないゴミになります。生分解性プラスチックは、1989年頃から考えられてきましたが、なかなか売れないのでみんな疲れてしまったのですが、もう2〜3年頑張ったらいいのではないかと思われます。このごろ新聞でもテレビでも環境問題が出ない日はないぐらいです。
 過去100年間、つまり、20世紀には地球の温度が0.6度上がったといわれます。次の100年にはたぶん4度から6度上がるだろうと。4度から6度上がるというのはどういうことかといいますと、北極や南極の氷が溶けて、海面が88cmほど上昇するということです。そうすると、フィジーとかあの辺は国が全部海水に浸かってしまって国が消滅するかもしれないという恐れが出てくるわけです。フィジーは、オーストラリアの西部に全員移民の許可を取ったといわれます。ヨーロッパでも氷河の先端が、1,300mぐらい後退しているといわれています。
 気候が上がると、沖縄の植物がこの辺で生えてくる。この辺の植物が東京へ行くとか、そういうふうになってくるわけです。今年、私は裏庭でゴーヤを作ったのです。あれは沖縄のものだと思ったのですけれども、立派なものができますから、いよいよ沖縄でできるものは京都でも作れるのではないかと思っているのです。米でもインドのほうのものはインディカで、我々が食っているのはジャポニカなのですが、それがだんだん北上してきました。気温帯が北上しますと、動物は足があるから逃げて行くのですが、植物は逃げられません。植物の速度は遅いのです。大体、温度が2度上昇すると、気温帯、気候帯というのは1.5kmから6.5km北上します。それに対して植物というのは100年間でせいぜい40mぐらいしか北上できないのです。だから追いつけないわけです。
 気候帯が早く温暖化していきますと、絶滅する植物がものすごく増えてきます。その代わり京都でゴーヤができたりするのです。そういう問題がいっぱい出てくるということで、環境問題はオタオタしていられない状況になりつつあります。始め、環境問題には経済界が反対していたのです。環境問題に金を投入すれば、絶対に経済にはマイナスだというわけです。100年後の10,000円よりも今の10円というのが経済界ですから、彼らは反対してきたのですが、これの一番の問題はその100年後も経済活動ができると思っているところが間違いなのです。
 26年後にインドネシアの石油は枯渇するといわれています。25〜26年後だったら、みんなの子供の時代とか孫の時代に破たんするわけです。ですから、緊急にやらなければいけないということです。ところが、一番多く石油を使っている(世界の消費量の30%ほど)、アメリカはブッシュさんがいいかげんなことをやっているのです。ブッシュ一族は石油産業の代弁者みたいなところがある上、アメリカは自動車社会ですから、石油の消費を否定する事はできないわけです。車社会ですからガソリンを使っていくほかありません。今アメリカは一番調子がいい、一人勝ちの国ですけれども、本当に石油が全部アウトになったら、アメリカは没落する可能性だってあるわけです。ただ、アメリカは国が広いので、ゴミをどこへでも埋めるところができます。ゴミを捨てる土地が無いのは日本とヨーロッパだけです。
 我々が石油を使い出してから100年ですから、今、パッと石油が無くなったら100年前の生活に戻らなければならないということです。今日なんか大変暑いのですが、こういうところで優雅にやっていられるのは石油のおかげなのです。やはり20世紀の文明というのは石油のお蔭です。

これは釈迦に説法かと思いますが、二酸化炭素と水で植物が光合成をやっている間はバランスがとれていますが、石油を使いますと、その分だけ炭酸ガスが増えるので温暖化が進みます。そういう話です。生分解性プラスチックはこの一環だから、これを燃やしても炭酸ガスは増えません。地球上のトータルの量は増えない。こういうものは全部プラスチックになります。
バイオマスプラスチックの比較
物性 生分解 環境ホルモン 価格
石油(エチレン、スチレン)

 






石油プラスチック × ++
木材チップ 木材プラスチック
微生物ポリエステル 微生物プラスチック
バイオマス
乳酸発酵
乳酸プラスチック
発酵を中心とする
バイオマス,フスマ,ビール粕,など
バイオマス
プラスチック
今のは石油のものが中心なのですが、こういう微生物と密接なバイオマスがあります。これは石油より安いということで、キロ大体100円から200円ぐらいなのです。他のものはなかなかで、今まだ400円から700円ぐらいしています。ただし、カーギル・ダウはポリ乳酸を2年後には、2ドルにするといってますから、2年後ぐらいになればそこそこビジネスになるのかなと期待しています
 今、京都市もバイオシティー構想というものを出しているのです。市長さんが市議会で宣言したものですから、事務局も何かをしなければいけないというわけで慌てているのです。私は環境問題をやるようにといっているのです。桝本さんは今、ヨハネスブルグへ行っておられるとのことで割合本気でやられるのではないかなと思っています。やはり今、一番大事な事は法制化です。法律でこれを使えとか、これは使うなとか、石油や石油プラスチックは使うな、生分解性プラスチックを使えというような法制化をすれば早いわけです。次に補助金です。早くやるには、もうこれは補助金を出すしか仕方が無い。企業の自腹負担がキロ当たり、400円、500円で、片や石油が200円だったら、200円、250円の補助金を出せばいいわけで、いつまでも続くわけではなく、2〜3年間でほぼ0(ゼロ)になりますから、2〜3年間だけ補助金を出せばいいわけです。それからあとは教育です。
生 分 解 性 樹 脂
2002 実 態
商品名 (トン/年) (トン/年)
 科学合成系
ポリ乳酸 エコプラ 14万 8000 カーギルJ
ポリ乳酸 レイシア 5000 500 三井化
ポリ乳酸 ラクティ 300 トヨタ(島津)
ポリブチレンサクシネート ビオノーレ 2万 3000 昭和高
ポリカポロラクトン セルグリーンPH 5000 1000 ダイセル
変性ポリエステル バイオマックス 40万 10万 デュポン
脂肪酸ポリエステル エンポル 8万 8000 イレ化
 微生物産生系
ポリヒドロキシブチレート ビオグリーン他 1000 10 三菱ガス化
 天然物利用系
修飾澱粉 コーンポール パイロット コーンスターチ
酢酸セルロース セルグリーンPCA 10万 ダイセル 他
キトサン/きとさん/澱粉 ドロンCC パイロット アイセロ 他
バイオマス液化物 グルポール パイロット GB
同上 ビオスター パイロット GB
初めて、微生物がこういう高分子を作る事が発見されたのは、1920年代でしたが、物性が悪く、なかなかものにならなかったのです。70年代になって、ICIというイギリスの会社がものにしたのです。ですから、こういうふうにこれだけだったら駄目なのですが、こういうものとこういうものをつなぐとか、前半部分と後半部分の組み合わせを変えることによって、種々の物性を持つプラスチックが作れるようになってきたのです。
微生物から、ものすごくいろいろなバリエーションを持つプラスチックができているのではないかと思います。
これは代謝系なのですけれども、糖と炭酸ガスからこういうものができます。微生物は栄養状態が非常に良いときにはこういうものを作って、飢餓状態になったらこれを食べてエネルギー源にしてますから、これは確実に分解性があります。ただし、これの限界は既に細胞中に90何%できているということです。ですからもうこれ以上は無理です。だから、後は連続培養でやるか、固定化してやって何とか勝負。それで生産量が上がれば値段が下がる。これが一番いいのですけれども、値段の点、生産量の点が引っかかるのです。
こういうふうにいろいろ変化させるとものすごくいろいろな物性が変わってくるので、このプラスチックの多様化が考えられます。さっきいいましたポリ乳酸なんかもごみ袋といったらバリバリなので駄目ですが、そこへ他の樹脂を入れればかなりしなやかになります。だから、そこに日本の各企業が今やっていますけれども、このような改質と用途開発が日本企業の今後の戦略になると思います。
これが現状です。カーギル・ダウのポリ乳酸が14万トン、デュポンのバイオマックスが40万トンですから、これが出てくる。これとこれが勝負。将来的には私はこちらのほうが勝つのではないかと思っています。これは韓国のイレ社のエンポルで8万トンぐらいということです。この3つが主たるもので、その他には、BASFやコダックのものがありますが、我が国のものは生産量が1万トン以下のものが多いので、ちょっと苦戦でしょう。トヨタが島津のポリ乳酸を買い取って、数年以内に5万トンぐらい作るらしいということですが、ここと物は一緒ですから、その辺がどうなるかというのがあります。
環境問題
(1)石油資源の枯渇と炭酸ガス総量の増加
   ○バイオマスの利用(プラスチック)
(2)環境ホルモン、特にダイオキシン対策
   ○発生源が特定できない
   ○関値が当てはまらない(逆U字型現象)
   ○効果が十数年後に出てくるーーー行為障害
(3)意思決定システムの変更
   ○自由意志、民主主義の否定(未来世代への責任)
   ○全体主義、管理主義の出現(資源の管理)
   ○”コモンズの悲劇”を避ける
あとは消費者にどの程度買ってもらえるかというのが問題で、これは朝日新聞のアンケートですが、7割の消費者が買うというようになっていますので、あと2年後ぐらいすると値段が下がって消費者意識も出てくれば、そして法制化されてくれば、ビジネスになってくるのではないかなと考えています。
まず、@石油資源の問題に対して、A環境ホルモン等の問題があります。しかし、本日は専門の先生方ですので省略します。最後は、B意思決定システムの変更ということがあります。20世紀というのは自由放題に生きてきた時代なのですけれども、こういう未来世代への責任ということになるとこういうものを否定して、それから資源の管理をしなければなりません。「コモンズの悲劇」をなくそうというのがあるのですが、ご存知でしょうか。
コモンズの悲劇とは
コモンズというのはヨーロッパの共同牧草地のことです。それで、共同牧草地というのは一定の面積で、そこへ入れる家畜の最適数が決まっています。ですから、その中に各人が入れられる家畜の頭数がおのずから決まってくるわけです。ところが人間というのは、みんな自分勝手なことしか考えていませんから、それで特に悪い人間がいて、自分だけが人より多くの家畜を入れますと、その為に牧草地全体が駄目になってしまいます。これがコモンズの悲劇といわれるものです。環境問題にはこういうコモンズの悲劇になる可能性が非常に強いということで、一人でも不心得者がいると全体がつぶれてしまうわけです。環境問題は世界につながっている問題なのです。ですから、日本も悪い一人にならないように気をつける必要があります。
 これにはおもしろい話があります。2000年ほど前にクレオパトラというエジプトの女王がおりました。実在の人物でしたので、勿論、息をしていたわけです。その彼女の吐いた息がこの2000年の間にずっと世界中に広まって日本へも来てるということです。皆さんが息をしたときに彼女の吐いた空気の何分子を吸っているかということです。それを実際に計算した人がおりまして、それによりますと、皆さんの1回の空気でクレオパトラの吐いた息の1億分子ぐらいを吸っているらしいということです。物質というのは拡散していきますから2000年かけると世界中に広まるのです。1億というと大体10の8乗ぐらいです。実際に吸い込む空気の分子の総数は10の23乗ぐらいのオーダーになっておりますので、10の8乗ぐらいというのは物凄く微量なのですけれども、とにかく、1億個ぐらいはあるということです。ですから、この事をちょっと考えてみますと、現在、タバコを吸っていると2000年後の人々に影響を与えますよということです。
 環境問題というのはやはり地球上の誰もが真剣に考えないといけない問題で、俺だけならいいだろうと思ってずるい事をしていると、そのコモンズの悲劇になります。

ご承知の京都議定書もコモンズの悲劇をどうやって防ぐかという工夫がなされています。人間は利己主義なので、共同地というのは駄目なのです。日本人は特にそうで、自分のところだけは綺麗にするが、公園とか共同のものはみんなで荒らしても平気なところがあります。だから土地を区切って、あなたはこれだけ、あなたはこれだけやるから、みんな自分の分を責任をもってきちんとやれというわけです。
 これは結局、私有財産にして分け与えた方がいいのではないかということです。これは資本主義の原理です。資本主義というのはみんな勝手に自分のことだけ考えてやっているのだけれども、結果的にはうまくいくといわれます。それは、アダム・スミスが言ったように見えざる手によって制御されているからです。
 それで、土地はいいと。土地は分ければいいのですから。ところが炭酸ガスのような空気はどうするかということです。というのは空気は分けようがないからです。そこで出てきたのが炭酸ガスの排出量なのです。日本は6%とか、そういうような割り当てをして、その範囲で各国が排出量を抑えるわけです。議定書は先に述べたコモンズの悲劇を避けるための試みをしています。
この炭酸ガスの排出量の買い取りをする市場が既に、ヨーロッパにできてきたらしいのです。アメリカが議定書に批准しないと、そういう市場から放り出されてしまう可能性があるわけです。
排出権の問題は国と国とが契約していくわけです。個人と個人も契約でいくのですけれども、環境問題は化石資源の石油を残すとか、温暖化による悪環境を残さないとか未来世代のための問題です。未来世代というのは現在いないので契約のしようがないのです。そうすると、利己的な我々現代世代が現在存在しない未来世代の人のために考えてあげなければいけないという事態が起こりつつあるというわけです。そういうような時代になっているのです。
石油に代わるバイオプラスチックの創製
20世紀 21世紀
大量生産・大量廃棄 解体と再資源化の設計
石油プラスチック 生分解性バイオプラスチック
動脈産業 動脈産業
規制緩和 規制強化とグリーン税制
レベッカ(RBCA)法
 私どもは、生分解性プラスチックを中心にした地球の環境問題をしております。20世紀は地球の動脈のことばっかりを考えてきて、静脈のことを考えてこなかったのですが、人間の健康を考えても、動脈と静脈のバランスがあってそれではじめて健康になるわけで、地球も21世紀には静脈のことを考えてあげないといけないということです。
 ご清聴ありがとうございました。
質疑応答


 非常におもしろいお話でした。先生の最初の仕事のいきさつから伺っていましたが、ステロイドの構造機器ですか、そこから入られて、それから抗生物質をやられて、それから現在の環境問題ということですけれども。最近我々がテレビでよく話題になっています京都会議の議定書がどのようなものかということが全然分からないので、最近のテレビを見入っていますと何かCO2の排出量を会社で売り買いするというのを何か聞いたことがありますけれども、その京都議定書のあれに対してアメリカが参加していないということで売り買いするのにも非常に問題があるということを伺っていますけれども。
 私のほうで悪いのですけれども、先生がコモンズの悲劇というのを今おっしゃっていましたけれども、私は開業して25年になるのですけれども、家の前に池を作りまして非常に高価な、当時としては私のポケットマネーでは非常に高い5万円も10万円もする鯉を何匹か入れてまして、近所に桃山城があったから鯉を飼ってたくさんいればいいので入れたのです。みんな死んでしまって、やはりある面積にはあれだけのものを入れておかないといけないというので。
 最近非常に洪水が起こったり、アメリカで竜巻が起こったりとかいうのでもっともっと我々も環境問題に必死にならないといけないなということを考えていますけれども。私の高校時代のときにカウザーというのですか、ナイロンを発明した人が……
 僕はそれに興味を引いて非常に化学が好きだったのですけれども。それから京都大学でビニロンを発明されて、結局それの後始末をするのがアメリカではダウ・ケニーさんという非常にデュポンとか有名な会社がございますけれども、そういった方々と私自身の仕事をする機会があって非常に興味があったのですけれども。
 そんなんでプラスチックとかそういう廃材を作ったこと自体が問題で、それをいかに収拾するかというのでこれからも非常にごみにならない、先生の今、言われたカップラーメンが非常に印象に残っているのですけれども、わずか3分ですか、3分も1分も味は一緒らしいですけれども、あとずっと何百年も何十年もプラスチックが残るということは非常に興味を引かれたのですけれども。
 ともかくごみを出さないということと、いたちごっこだと思うのですけれども、ごみを作ってはそのごみが邪魔になってくるということで。そんなんで洪水が起こってドナウ川が長いことピンチになったということで急に我々は興味を持っていますけれども、何とかしないといけないということで。日本人は非常に見れば、あまり共同生活はできないです。
 アメリカなんかでは、クライシスのときに温度を1度上げよと大統領が上げたらみんな下げて、それでお金持ちもみんなあれをつけましたけれども。そんな非常に決意をしているので先生もお忙しいでしょうけれども、これからいろいろ日本各地に行かれて、今までの経験とこれからごみを出さないようにというようなあれにしていただけたらいいなということで、きょうは幅の広いいい話を聞かせていただき、会員を代表しましてありがとうございました。今後ともご活躍を期待しております。ありがとうございました。

 先生は、木材ですか?でんぷんですか?

 でんぷんです。木材もだいぶやったのですけれども、木材はだめです。なぜかというと、ばらつきが多いのです。針葉樹もある、広葉樹もある。それから廃材なんていったら何が入っているかわからないでしょう。何か工業生産しようと思うとやはりコンスタントに均質なものを何万トン供給ができるかという問題になりますので、その点で木材は無理だと思います。ある限られた量のものだけ作るというときはできると思いますけれども。品質のコントロールをするのがなかなか大変です。そういう点ではでんぷんのほうが楽だと思います。

 プラスチックといいましても非常に含有的なものでも、これもプラスチックと言われますとそうですね。これもそうではないか。そうですね。例えばそれこそそのコンビにの弁当はプラスチックです。サランラップみたいなものもプラスチックと言っているし、ですからプラスチックといっても非常に違いはないと思いますけれども、先生が目指しておられるプラスチックというのはどういう種類の……
 そういうものから、今さっきフィルム状のものから……
サランラップみたいなものです。ああいうものを買うと、いわゆる我々は普通にプラスチックと考えておいていい、種類もまだあったり、でんぷんでカバーできるということ……

 いや、でんぷんではこれは少し難しいなと思っています。でんぷんは緩衝材とか発泡材になります。例えば発泡スチロールに代わるものが必要とされています。だから、今、東芝などの電気関係の会社が熱心です。例えば、コンピュータなり、テレビをヨーロッパに持って行きますと中身だけは取ってくれるのですけれども、それらを包んでいた発泡体は持って帰れということになるわけです。箱や緩衝材を生分解性のものにすればヨーロッパで引き取ってくれるだろうというわけです。でんぷんからはすでに現在のものに相当するような強度のいいものはできているのですが、でんぷん製のものは船底でネズミに食われてしまいます。餅みたいなものですから。生分解性プラスチックも原料によって使い分けする必要があります。また、メーカーによってフィルムが得意なメーカーもありますし、発泡が得意なメーカーもあります。今の話でポリ乳酸さんだけだとやはりバリバリの袋しかできないのでそれにいろいろなものを混ぜることによってしなやかさを持たすとかができます。それは今、各社がやっていますから。
 そこが知恵の出しどころというか、そこで用途特許を取ることが必要です。ポリ乳酸でも発泡体はもうできるようになったのです。が、それは鐘紡。鐘紡しかこの特許を持っていないと思います。だから、その辺がこれからは特許戦争になる可能性があるのです。
 京都の中央市場でトロ箱の処理に困っているので、先生何とかなりませんかとかよくいわれるので、これを生分解のものに変える事を考えています。一応トロ箱はできているのですけれども、実際に作るとなるとまた何か問題が起きてくるかもしれません。一応、鐘紡もやる気がありますので、鐘紡と京都市をつないで、生分解性プラスチックによる循環型モデルを作る努力をしています。
 フィルムに就いては、また別の考えをしています。園芸用のフィルムになるか、食品用フィルムになるか、いろんな選択肢があります。食品コンタクトは補償問題なんかが起こる可能性があるので大変です。現在、例えばデュポンのバイオマックスはすでにFDAの安全性の許可を取ったのです。生分解性では日本のほうが厳しいというか、ある時間で分解しないといけないとかいうことで、FDAのほうが少し緩いらしいのです。デュポンのバイオマックスはFDAの許可を取ってマクドナルドで使うことになりつつあるようです。
 ポリ乳酸は例えば温度が50度でだめだとか、色が着きにくいとか、いろいろな欠点があるのですが、カーギル・ダウは一番先発ですから、みんなやっているところが多いのです。
 それで、日本の会社4社ぐらいがお金を出してメンバーシップを取ったのです。日本の会社というのはそういう点では金を持っていますから。遺伝子組み換えをやっているときでもそうでしたが、日本の会社はお金を持っていますので、よく外国にお金を出します。ポリ乳酸さんにお金を出して、なおかつポリ乳酸を1万トンかなんか背負わされているということで、それをまた消化しなければならないので、結構、大変は大変と思います。おもしろいところではあるのですけれども。ここ数年はいろいろなアイデアを出せばいろいろな可能性があると思われます。とにかく、これからの数年間は生分解性プラスチックを中心にした環境問題が深刻化する時期で、世界的にも社会が変わっていくものと思われます。

私の臨床生活からものすごく離れた世界に新しい生き方をいろいろ話していただきありがとうございました。