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「女性に多い片頭痛 その診断と最新の治療について」

立岡神経内科 院長  立岡 良久 先生

日本神経学会     日本内科学会    国際頭痛学会 
頭痛の種類と症状の実態について
 1988年国際頭痛学会で取り決められた頭痛の分類を表にしたものです。頭痛は13のグループに分類にされております。近々、改訂になりますので、分類は多少変わると思いますが、大きく分けて機能性頭痛、症候性頭痛、神経痛、その他と4つに分かれます。
 機能性頭痛というのは、頭蓋内を含めて全身的にどこにも器質的な疾患がない頭痛です。すなわち頭痛だけが症状であるというものを機能性頭痛と言います。
 症候性頭痛というのは頭蓋内、あるいは内科的な疾患、外科的な疾患の二次的な症状として起こってくる頭痛です。症候性頭痛には、重篤な疾患が含まれており、迅速な診断と速やかな治療開始が必要です。
 機能性頭痛で重要なものは、3種類です。一つが最近話題のトリプタン製剤が有効である片頭痛です。二つ目が緊張型頭痛。三つ目が群発頭痛というあまり聞き慣れない頭痛です。これが機能性頭痛の三つの代表選手であります。
国際頭痛学会による頭痛の分類
機能性
 頭痛
1、片頭痛
2、緊張型頭痛
3、頻発頭痛および慢性発作性片側頭痛
4、器質的病変をともなわない各種の頭痛
症候性
 頭痛
5、頭部外傷にともなう頭痛
6、血管障害による頭痛
7、非血管性頭蓋内疾患にともなう頭痛
8、原因物質あるいはその離脱にともなう頭痛
9、頭部以外の感染症にともなう頭痛
10、代謝障害にともなう頭痛
11、頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口
あるいは他の顔面、頭蓋組織に起因する顔面痛
神経痛 12、頭部神経痛、神経幹痛、求心路遮断性疼痛
その他 13、分類できない頭痛
 症候性頭痛の中で最も有名なのは、突然今まで経験したことのない激しい頭痛で発症するくも膜下出血と思います。このような血管障害による頭痛以外に感染による髄膜炎、脳炎など、あるいは場合によっては外傷によるもの、それから副鼻腔の疾患によるものなどが症候性の頭痛を引き起こします。さらに頭蓋以外の疾患でも、例えば急性上気道感染症などでも頭痛を自覚することは良く知られています。
 頭痛を訴える患者さんを前にして、我々神経内科医がなすべき仕事は、まずこの患者さんの頭痛が機能性頭痛なのか危険な頭痛を含む症候性頭痛であるのかの鑑別診断です。症候性頭痛であればその基礎疾患を診断して治療につなげなければなりません。症候性頭痛が否定されれば、機能性頭痛のいずれかと考えられます。機能性頭痛もそれぞれ治療法が異なりますので、確定診断が重要です。
 少し疫学的なお話をさせていただこうと思います。北里大学の坂井教授らが非常に詳しい疫学調査を行い報告されています。日本人4,029人にアンケート調査を行いまとめられたたものです。この調査によると1年間に頭痛を経験すると人は15歳以上人口の40%を越えることがわかりました。
<頭痛の有病率>            北里大学
15歳以上
4029人
緊張型頭痛
 15%
緊張型頭痛疑
 7%
片頭痛 6%
頭痛なし
 61%
片頭痛疑 2%
その他 9%
 この中で最も多いのが緊張型頭痛で全人口の20%を超えます。片頭痛は疑いを含めると8%です。1億人の日本の人口で考えますと約800万人の患者さんがおられるという勘定になります。片頭痛の患者数は緊張型頭痛の患者数の半分以下であるはずですが、片頭痛は緊張型頭痛に比べて痛みの程度が強く、生活支障度も高いため、医療機関を受診する片頭痛の患者さんの数は圧倒的に緊張型頭痛より多いでのす。当院を頭痛のために受診する方の83%が片頭痛です。
 2002年5月開催された京滋公開市民講座の結果を紹介します。京滋地区で応募の葉書が1,000通あり、350人が参加されました。アンケートの回答を246人より頂きました。9割が女性で、30代から50代の女性が圧倒的に多いです。
<持続時間と頻度>
◆頻度→1ヶ月に数回◆頻度→数ヶ月に1回◆治まるまでの時間→4時間〜3日間、これは片頭痛の特徴に合致します。 
<頭痛の性状>
◆日常生活に支障、イエスと答えた方は40%を越えます。これは大変重要な意味があります。慢性頭痛、発作性頭痛の中で寝込んでしまったり、日常生活に支障がある場合はほとんどが片頭痛です。もう一つ激しい頭痛に群発頭痛がありますが、片頭痛に比べて頻度が極めて低いものです。
◇片頭・両頭がズキンズキン痛む、ズキンズキンと心臓の拍動と同期して痛みますかという質問です。イエスと答えた方は60%近いです。ズキンズキンと心臓の拍動に一致して痛む頭痛、これが繰り返してあるならば、片頭痛と言ってよいと思います。
◆吐き気・嘔吐・、または光・音に敏感、片頭痛の特徴で、来られた方の半数になります。
片頭痛の診断に大変重要である◇動いた時痛みが強くなる、この訴えがあればほとんど片頭痛と考えられ、半分近い方がイエスと答えています。
すなわち来られた方々のほとんどが片頭痛に悩んで何とかしてほしいとい思っておられると理解することができます。
 医療機関を定期的に受診している、あるいは不定期だが受診している、すなわち受診しているという人はわずか10数%です。 ほとんどの方が受診せずに何とか自分で我慢するなり、対処をしているということであります。
<受診しない理由>
◇受診しても治らなかった、半分近くあります。
◆医師が痛みを理解してくれなかった、やはり半分ぐらいおられます。
<持続時間と頻度>
◆治まるまでの時間→3日間以上
◆治まるまでの時間
  →4時間〜3日間
◆治まるまでの時間
  →1〜3時間程度
◆頻度→ほとんど毎日
◇頻度→1週間に数回
◆頻度→1ヶ月に数回
◆頻度→数ヶ月に1回
<頭痛の性状>
◆動いた時痛みは変わらない
◇動いた時痛みが強くなる
◆目に前がチカチカする前ぶれ
◆肩こり・目の疲れ等を感じる
◆吐き気・嘔吐・、または光・音に敏感
◆全体、締め付けられるよう
◇片頭・両頭がズキンズキン痛む
◆夕方に頭痛が起こりやすい
◆日常生活に支障
<受診しない理由>
不明
◆その他
◇痛みの対処方法を自分でみつけた
◆費用が高くて負担になった
◆受診する時間がなくなった
◆医師が痛みを理解してくれなかった
◆処方された薬が薬局で購入できる
◇受診しても治らなかった
◆痛みが軽くなった
◆処方された薬が薬局で購入できる、痛みがどれぐらい強いのか、どれぐらい辛いかということも聞いてももらえずに処方された薬がバッファリンやセデス等での頓服で対処されてしまったとか・・・これは我々の反省材料と考えております。
実際の症例から鑑別診断
非常に典型的な片頭痛の患者:症例1で、典型的な片頭痛の患者をどのように診断して治療をするか紹介します。
症例1: 55歳女性
 <家族歴>母に頭痛発作あり
 <現病歴>子供の頃より頭痛発作が月1〜2回にあり、最近は週に1〜2回。
 <頭痛の性状>頭の左半分が、ズキンズキンと心臓の拍動と同期して痛くなる。
         次第に増悪し嘔気を伴う、吐いてしまうと軽快して治る。頭痛の持続時間は6〜8時間。
 頭痛の性状をよく聞いてみますと、頭のいつも左半分が痛い。ズキンズキンと心臓の拍動と同期して痛くなると。これはとても大事な訴えです。
 内科的な所見や神経学的所見に異常はありません。脳のCTでも異常所見はありませんでした。血液検査、や心電図も正常です。すなわち頭痛の性状と検査結果を考慮し片頭痛という診断になります。片頭痛であればトリプタンが非常によく効きますし、予防薬もありますのでコントロールが非常にやりやすくなっています。
 話は少しこの患者さんからそれますが、患者さんの中でズキンズキンと痛いですと言って診察室に入って来られる患者さんがいますけれども、診察時に頭痛を自覚しておられる場合は必ず手首の動脈を触れてもらってください。それで心拍動と頭痛が同期しているかという確認をしていただきたいと思います。大後頭神経痛の患者さんも頭の片側がズキン、ズキンと痛いと訴えます。言葉だけでは片頭痛の拍動性頭痛と区別が困難なことがあります。心臓の拍動と一致していれば片頭痛の診断はほぼ確定されます。
 この患者さんの頭痛を「前兆を伴わない片頭痛の診断基準」に照らし合わせると、今までの頭痛回数、持続時間は合致します。頭痛の特徴も片側性拍動性で時に日常生活が阻害され基準を満たします。随伴症状も嘔気嘔吐を伴っています。従ってこの患者さんの頭痛は前兆を伴わない片頭痛と診断されます。
 片頭痛であれば、トリプタンがよく効きます。この患者さんも頭痛発作時にトリプタンを服用してもらい、頭痛は30分ぐらいで消失しました。嘔気も自覚することはありませんでした。さらに予防薬を服用していただき次第に頭痛発作もなくなってきています。

前兆を伴わない片頭痛の診断基準     国際頭痛学会
頻度回数 5回以上
頭痛の持続 4〜72時間
頭痛の特徴 以下のうち2項目以上
1、片側性
2、拍動性
3、中等ないし高度の頭痛で日常生活が妨げられる
4、階段の昇降など日常的動作により増悪
随伴症状 以下のうち1項目以上
1、嘔気、嘔吐
2、光過敏、音過敏
その他 以下のうち1項目
1、臨床的に器質的疾患による頭痛を否定し得る
2、臨床的に器質的疾患が疑われても検査により否定される
3、器質的疾患が存在しても、経過より片頭痛との関係を否定できる
片頭痛の臨床的特長
 ・30歳までに発症
 ・発作性、反復性頭痛
 ・拍動性(70%)
 ・片頭性(70%)
 ・光、音過敏
 ・悪心、嘔吐
 ・日常動作で増悪
 ・日常生活が障害
 ・妊娠中は軽快〜諸質
 ・高齢化すると軽快〜消失
 片頭痛のもう一つの特徴は、頭を振ったり、階段を降りたりするなどの日常動作でと痛みがひどくなることです。嘔気を伴って吐いてしまうと軽快します。それから眠ってしまうと治りますが、逆にストレスから開放されホッとしたとき、あるいは寝過ぎたときにも起こります。寝過ぎたときに起こるというのは片頭痛の特徴です。 サラリーマンがウイークデーで忙しくて仕事に忙殺され、週末にホッとした時に痛みが始まるのも週末頭痛と呼ばれこれも片頭痛の特徴です。
症例2: 36歳男性
<嗜好歴>煙草;30〜40本/日 酒;ビール1本/日
<既往歴>10年位前より頭痛あり、鎮痛剤を常用。
      某年9月20日より強い頭痛を自覚。次第に増強するため近医を受診し投薬を受ける。
      さらに増悪し夜間眠れなくなり、度々嘔吐を伴うようになった。
      26日他院受診、頭部CTは異常なし、投薬。症状が治まらず、30日京都市立病院救急室受診。
<入院時所見>両側軽度外転神経麻痺以外異常なし。
 話はきちんとできるのですけれども何となくボーとしておられました。それから両側の外転神経麻痺が軽度ありました。どういうことかと言いますと、右方を注視してもらうと右眼が外側まで十分動かない。左方を注視してもらうと左の目が十分左側に動かないのです。このような他覚的症状を伴った頭痛の場合は頭蓋内病変を考える必要があります。
 単純CT撮影してみますと、脳の実質は特に問題はありません。しかし内大脳静脈と脳底静脈がhigh densityを示していました。静脈は通常Isodensityを示します。High Densityを示していれば静脈内に血栓があると考えられます。すなわち脳静脈洞血栓症の診断がえられました。確認のために造影CTを撮影いたしました。通常造影CTでは静脈洞は全体が均一にhigh densityを示しますが、この患者さんの静脈洞は不均一なLow densityの血栓が確認されました。これも静脈洞血栓症を示唆する所見です。
MRAを同日行いましたが上矢状静脈洞、横静脈洞、S状静脈洞にHigh in intensityとLow in intensityの入り混じったすなわち新旧入り交じった血栓が充満しているのが分かります。視床部が少しHighを示しており、虚血性の病変が起こりかけているということが示唆されます。
 血液検査をいたしますとループス・アンチコアグラントが陽性でした。すなわち、非常に凝固系が亢進している状態である抗リン脂質抗体症候群が基礎疾患としてあることが分かりました。治療は入院時からウロキナーゼの点滴治療を始めまして次いでヘパリン点滴さらにワーファリンによる抗凝固療法を続けました。脳内の静脈を観察できるMRVenographyで静脈洞内の血栓を観察しながら経過観察をしましたが、静脈血流は1週間後には改善がみられ、頭痛を含む症状も入院1週間後には消失しました。現在も無症状で経過は良好です。
 この症例2で注意する点は、10年前から頭痛を何回も経験しており機能性頭痛と考えられのですが、10日前から激しい頭痛が始まり増悪して、嘔気、嘔吐を伴って市立病院の救急室に来られたことです。このような経過があれば、器質的な頭蓋内病変を考えていただきたいと思います。
症例3: 47歳女性
<現病歴>若い頃時に頭痛を自覚することがあったが、特に治療は受けなかった。
      2年前頃より頻繁に頭痛を自覚するようになり、某病院を受診。
      脳静脈洞血栓症と診断され入院加療を受けた。
      退院後も頭痛発作は頻発するため、近医でアセトアミノフェンを処方されて対処されていた。
      週に4ないし5回頭痛がありその度に服薬していた。
      8月12日起床後、頭痛がはじまった。頭痛は拍動性で、次第に増強し嘔気も出現。
      薬を飲んでも改善せず近医を受診。頭痛が激しいため京都市立病院救急室を紹介された。
 MRIを撮りにストレッチャーで移動する際に体が揺れと痛いと訴えます。すなわち体動時に痛みが増悪します。ボルタレンの座薬を入れましたが、あまり改善しませんでした。次いでスマトリプタンを1アンプル皮下注射しました。8分後にはそれまでの頭痛の程度の5/10、すなわち半分に減りました。ところがトリプタン特有の副作用が現れました。前胸部の圧迫感が出現しました。狭心症を疑い心電図と血液検査を行いましたが異常なく虚血性心疾患は否定されました。20分後には頭痛も前胸部通も全く消失し、来院2時間後には、歩いて帰っていかれました。翌日からロメリジンを開始して、その後頭痛はほとんど起こらず、トリプタンの頓服もほとんど要らないぐらい軽快しています。これは脳静脈洞血栓症と間違えられた片頭痛のケースと考えられます。
症例4: 63歳男性
 脳静脈洞血栓症で不幸な転帰をとられた患者さんです。ある日突然、意識消失と間代性強直性痙攣があり、救急車で市立病院の救急室に来られました。診察した時には、もうすでにJapan Coma ScaleでDeep Coma、痙攣が持続する痙攣重責状態でした。非常に重篤な状況でした。
 直ちにCTを撮りますと、両側の皮質と皮質下に大量の出血性病変が認められました。脳底静脈洞血栓症の末期の大量出血に一致する所見でした。
 MRIを施行しましたが、やはりSigmoid Sinus、Superior Sagital Sinusに大量の血栓が充満していました。脳実質にも大量の出血が確認されました。 MRVenographyにより脳静脈洞の血流欠損が確認されました
ループス・アンチコアグラントがやはり陽性でございました。やはり抗リン脂質症候群による脳静脈洞血栓症によるものと考えられました。
 症例4が末期まで病院受診ができなかった理由の一つは、大酒飲みでいつも朝から酔っ払っておられたためと考えられます。大酒飲みの方は少し注意をしていただきたいと考えております。
 脳静脈洞血栓症は多分聞き慣れない病気と思いますが、決してまれな病気ではあいません。頭痛の患者さんが来られたら、こういう病気も注意しておいていただきたいと思います。
症例5: 45歳女性
<現病歴>若い頃よりギザギザしたものが見えた後に拍動性の頭痛を数ヶ月に1度位自覚したが鎮痛剤で対処。
      5月6日洗濯中に両側側頭部にズキンズキンと拍動性の痛みが現れた。
      7日起床しても頭痛が続くため当院を受診。
<頭痛の性状>両側性 拍動性 頭を動かすと増強する。
 片頭痛と思われるこのようなケースもあるので日頃少し注意をしておいていただきたいという患者さんです。
「頭を動かしたらどうですか」「いや、こんなしたら痛いですわ」と言ってなかなか大きくは振らない。少し振って、「先生、痛い」と。これは先ほどから何度もお話しています日常動作で増悪するという片頭痛の特徴です。1例目の片頭痛に前兆を伴うものと考えていただけると思います。
当院に来られた患者さんにお出ししている頭痛のQ&Aシートに照らし合わせて、これはもう典型的な片頭痛だと思われます。トリプタンでこの頭痛は改善すると思いました。
 しかし訴えに少し引っかかるところがありました。頭痛が起こった状況を時間、秒単位で説明をしてくれるのです。洗濯をしている最中にかがんで洗濯物を持ちあげた途端に痛くなってきたそうです。片頭痛の患者さんはもう少し長い経過でじわじわと痛くなる。この1点だけがどうも違うなと思いました。
 一般内科的には何にもありません。意識清明で、神経学的所見を取っても何も異常ありません。直ちに脳CTをチェックすると、くも膜下腔が全体にhigh densityを示していました。これは典型的なくも膜下出血のCT像であります。その場で造影剤を使った3D-CT Angiographyで脳内血管を検索すると、前大脳動脈に動脈瘤が見つかりました。すぐに京都市立病院脳外科にて手術してもらいました。現在無症状でお元気です。
 このように最初の問診票から典型的な片頭痛と考えられても、くも膜下出血など命にかかわる疾患が混ざってくるということがあります。今までと違う頭痛を訴えてこられた場合はもちろん、初めて頭痛を訴えて医療機関を受診された場合は、必ず頭蓋内病変を否定するため一度はこういう検査をする必要があると思います。

症例6: 29歳女性 急性副鼻腔炎
その他に、最近経験した頭痛絡みの片頭痛以外の症例を紹介します。
 症例6は、ある神経内科疾患のため20年ぐらいフォローしている患者さんですが、風邪をひいて風邪薬を飲んだけれど、その後頭痛がドンドンひどくなって来たため来院されました。右眼の周囲がすごく痛いそうです。どうもおかしいなということでCTを撮りましたら、副鼻腔の右側に浸出液が充満しており、急性の副鼻腔炎の所見と考えられました。かなり痛がっておられ、片頭痛と違うところはこの患者さんは少し熱があって前医で受けた検査でCRPも少し上がっているということがありました。抗生剤と消炎剤の投与で数日で症状は消失しました。
症例7: 21歳男性 急性副鼻腔炎、くも膜下のう胞
 頭痛があり検査にて脳内病変が見つかれば、これが頭痛の原因であるかどうかの判断をしなければなりません。
症例7も半年に1回ぐらい激しい目の奧の痛みが1週間ぐらい続くというエピソードの持ち主です。CTにて副鼻腔炎の所見と頭蓋内にくも膜のう胞が見つかりました。どちらが頭痛の原因だろうかということになるのですが、くも膜のう胞は一般的に頭痛の原因にはなり得ません。そこで急性副鼻腔炎に焦点をあて、抗菌剤と鎮痛剤を1週間飲んでいただいたところ、症状は消失しました。フォローアップCTは撮影できませんでしたが、おそらく急性副鼻腔炎による頭痛だろうと考えています。
 最後のケースになると思いますけれども、診断名から先にお話しますと群発頭痛の患者さんです。群発頭痛の患者さんは圧倒的に男の人が多いです。
症例8: 53歳男性
<現病歴>7年前の夏、午前2時ごろ、睡眠中突然激しい頭痛に襲われて目がさめた。
      右眼の奥を刺されるような激痛で、某病院救急室を受診。CTなどの検査を受けるも異常なし。
      鎮痛剤を処方された。3時間ぐらいで頭痛は改善した。
      その後連日、同じ激痛が深夜に出現するようになった。
      複数の病院を受診、検査投薬を受けたが効果はなかった。頭痛は2ヶ月後には、自然に消失。
      某年8月17日再び深夜に同じ激痛が始まり、某病院救急室を受診したが、異常は指摘されず、
      鎮痛剤の投薬を受けた。
      連日激しい頭痛発作があるため、仕事がまったく出来なくなった。
      市立病院眼科を受診し、9月1日神経内科を紹介された。
      意識清明、言語正常、神経学的には異常なし
<頭痛の性状>右眼の奥を鋭い火箸でえぐられるような痛み
         顔面の発汗が激しく、右眼結膜充血、嘔気、口渇を自覚
         3時間ぐらいで、自然に改善。
 群発頭痛の診断はほとんど病歴で確定することができます。病歴が一番大事です。
右側の目の奧を刺されるような激痛、これも群発頭痛の特徴なのですが、普通このような頭痛が中年の男性に突然起こると、先生方はくも膜下出血を疑われる思いますし、病院の当直医もまずくも膜下出血を考えます。多くの患者さんもそう考えて救急室を受診します。この患者さんはCTを受けて何も所見がなかったため、鎮痛剤を処方されて帰宅しました。頭痛は3時間ぐらいで自然に回復します。
 私も念のため画像をチェックしましたが何もありませんでした。動脈瘤の有無を知るためにMRAを行いましたが認められませんでした。
 群発頭痛の診断基準は右の図の通りです。
 この方は発汗と結膜充血、流涙があって、随伴症状の3項目を満たしておりました。頻度は毎日1回ですので該当します。その他とは脳内に病変が無いことを画像などで確認することです。この方はMRIで確認しました。以上のことから、症例8は群発頭痛と診断しました。
 今晩も頭痛発作が起こる可能性が高いと推定されます。救急室にこの患者さんが来たら、群発頭痛だから「くも膜下出血を考えてCTを撮ったりせず、来たらすぐにスマトリプタンの注射をしてください」とカルテに記入しました。やはりその晩2時に頭痛が始まって、2時40分に救急室に到着、指示通りに救急室で対処すると、45分には改善して帰られました。
群発頭痛の診断基準
頭痛回数 5回以上
頭痛の持続 強い片側眼 、上眼 あるいは頭頂部の痛み
15〜180分持続
随伴症状 以下のうち1項目以上
1、結膜充血      5、前頭部、顔面の発汗
2、流涙         6、縮瞳
3、鼻閉         7、眼睡下垂
4、鼻汁         8、眼睡浮腫 
頭痛の頻度 2日に1回〜1日8回
その他 以下のうち1項目
1、臨床的に器質的疾患による頭痛を否定し得る
2、臨床的に器質的疾患が疑われても検査に
より否定される
3、器質的疾患が存在しても、経過により群発
頭痛との関値を否定できる
 群発頭痛の痛みは激痛です。片頭痛の患者さんはうずくまっていますけれども、群発頭痛はのたうち回ります。ベッドの柵や壁に頭をゴンゴンぶっつけて、その痛みで群発頭痛を紛らわそうとするぐらい特徴的な激しい頭痛です。3時間したらケロッと治ります。そういう頭痛であります。
 以前はスマトリプタンの筋注のみが有効な薬でしたが、これは医療機関でのみ使用可能です。ごく最近、スマトリプタンの鼻吸入が発売されました。これは自宅でも使用可能です。患者さんには大体3時間続く頭痛が30分ぐらいで良くなると評価してもらっています。
片頭痛の治療について
 最後に片頭痛の治療を簡単にお話しようと思います。片頭痛の治療というのは何段階かあります。第一にすることは一般療法です。
 片頭痛の患者さんによく話を聞くと大体誘因に気付いておられます。多いのは睡眠不足、睡眠過多、仕事が非常に忙しい。それから仕事が終わってホッとしたとき、デパートに買い物に行った、人混みの中に行った等です。
一般治療 誘因の排除
過労 ストレス 睡眠不足 環境の変化
避けるべき食べ物
グルタミン酸ソーダ 香辛料 海草
インスタント食品 乾燥ナッツ 赤ワイン
ビール チョコレート チーズ 
ソーセージ サラミ
薬物療法 発作時
発作間欠期
誘因をまず聞いて、できればその誘因を取り除くというのが第一歩です。
それから食べ物で片頭痛を誘発するというのが幾つか知られております。代表的なものを挙げました。
 片頭痛の方はこれらを食べてはいけないと言うのではなく、思い当たるものがあれば止めると考えてください。例えば赤ワインを飲むと必ず起こるというのではなくて複合的な要因が絡んでいて、体調が悪いときなどに飲むと起こりやすい人もあります。誘因を排除しても、まだ頭痛がコントロールできなければ初めて薬物療法に入ります。薬物療法には発作期と発作間欠期の治療があります。
 発作期の薬物治療、すなわち発作が起こったときに飲む薬は3種類あります。トリプタン系とエルゴタミン製剤、鎮痛剤があります。
5−HT1B/1D受容体作動薬は、トリプタン製剤ですが3種類が現在使用可能です。イミグランは皮下注射と経口、鼻吸入用のスプレー液が使えます。スプレーは経口よりは早く効きますが、皮下注射ほどの即効性はありません。ちょうど中間の早さで効きます。経口では効きが遅い、あるいは不十分という方、あるいは嘔気、嘔吐があって薬を飲めない方、あるいは朝起きてすでに頭痛がガンガン起こっている方は経口ではなかなか効きづらいのでスプレーにする方法がいいかなと思います。それからゾルミトリプタンは、経口ですけれども、これの利点はRM錠というのがありまして口に入れるとラムネ菓子みたいにスッと溶けて水無しで飲めるというメリットがあります。仕事中や授業中でも服用が可能です。
 トリプタンは3種類とも有効性が高く副作用も少ない安全な薬です。エルゴタミンは、頭痛がひどくなる前に飲むとよく効きますが、タイミングを逃すとほとんど効かずむしろに悪心、嘔吐を誘発します。従来片頭痛の随伴症状として悪心、嘔吐はかなり頻度が高いとい言われていましたが、実はその一部はこのエルゴタミンの副作用であるということが分かってきています。
                            
片頭痛発作期の治療薬
薬品名 投与量 副作用
1、 5−HT1B/1D受容体作動薬
スマトリプタン
(イミグラン)
3r SC,50r PO
20r N S
胸部不快感
めまい感
ほてり

眠気
ゾルミトリプタン
(ゾーミック)
2.5r PO
エレトリプタン
(シルバック)
20r PO
ナラトリプタン
2、 エルゴタミン製剤
酒石酸エルゴタミン 1〜2r/回 悪心 腹痛 
胃腸障害
腹痛
(カフェルゴッド)
(クレアミンA)
3、 鎮痛剤
アスピリン
 イブプロフェン他
0.5〜1r/回 胃腸障害
それから軽い患者さんに対してはアスピリン、イブプロフェンなどの鎮痛剤でもいいと思います。
 一つ注意をしていただきたいことがあります。私の診療所に来られる新しい患者さんのかなりの方が薬剤長期乱用による頭痛の方です。どの片頭痛治療薬でも毎日連用すると、そのうち飲まないと頭痛が起こるという事態になります。多分、先生方はSleep Inducerで同じことをご経験されていると思います。Sleep Inducerを毎日服用して眠る習慣をつけた患者さんはなかなか離脱が困難です。いずれの片頭痛治療薬でも起こりますので注意をしてください。トリプタンは月に5〜6錠ぐらい、最多でも月10回までが望ましいと考えられています。それ以上飲まれる方は心因性のファクターがあるなど、他の要因を探す必要があるかと思います。
 もう一つの治療法で間欠期の治療というのがございます。これは片頭痛発作が月に何回も起こる方、目安としては3回以上起こる方は予防薬を毎日飲んでいただくのが良いと思います。予防薬は頭痛の発作頻度を減らしたり、頭痛の程度を軽くする作用を期待して使います。6種類あります。単剤でコントロールできなければ、コンビネーションになると思います。私がよく使うのは、唯一この中で保険適用のあるカルシウム拮抗薬である塩酸ロメリジンです。これを朝1錠夕1錠飲んでいただきますと、1〜2ヶ月の間に徐々に効果が現れます。これをファーストチョイスにしています。効かない場合は、これを増量します。あるいはβ遮断薬プロプラノロールを追加します。場合によっては、トリプタノールを乗せる。あるいは交換する。それから抗痙攣薬のバルプロ酸も効果が期待できます。私自身の印象として、この3剤はロメリジンとほとんど同じぐらいの有効率があると思っています。コンビネーションで使う、あるいは単独で使う、このように処方していただければよいかと思います。
 このような予防薬を飲んでいただいて頭痛発作が段々減ってきて、全く無い期間が例えば2〜3カ月ぐらい続けば少し減量します。少し減らしてまた1〜2カ月無ければまた減らす。少しずつやめるのがいいと思います。
片頭痛発作間欠期の治療薬
薬品名(商品名 投与量) 副作用
1、Ca拮抗薬 塩酸ロメリジン
(テラナス・ミグシス10r/day)
胃腸不快感
浮腫
2、β遮断薬 塩酸プロプラノロール
(インデラル30〜90r/day)
ビンドロール
(カルビスケン3〜5r/day)
徐脈
低血圧
悪心 嘔吐
3、抗セロトニン薬 メシル酸ジヒドロエルゴタミン
(ジヒデルゴット3r/day)
塩酸サイプロヘプタジン
(ペリアクチン4〜17r/day)
胃腸障害
眠気 口渇
倦怠感
4、抗うつ薬 塩酸アミトリプチリン
(トリプタノール10〜60r/day)
口渇
ふらつき
めまい
5、抗不安薬 ジアゼパム
(セルシン、ホリゾン2〜6r/day)
エチゾラム
(デバス1.5r/day)
眠気
ふらつき
眩暈
6、抗てんかん薬 パルブロ酸
(デパクン250〜1000r/day)
悪心、眠気
肝障害
当院の患者さんで、予防薬の服用を続けて頭痛が全くなくなってしまったので、突然中止したところ、再び片頭痛発作が頻発しだした方があります。決して急激にやめずにしばらく経過を見て徐々にやめていくというようにしていただきたいと思います。
 どうも長らくご清聴ありがとうございました。
質疑応答
司 会 どうもありがとうございました。何かご質問がございますか?


 更年期の人にHRTをしたり、それからピルを使ったりします。大抵その中には頭痛の患者さんが結構います。片頭痛と診断できるかどうかはわかりませんが、頭痛があり更年期で治療を行っている患者さん、HRTをしながら血管を締めるような薬がどのように関係して作用していくか。例えばプレマリンが血液を固めやすくします、そこに血管を締めますと、血栓が血流を阻害するというFissureを起こりやすくするので、脳とか心臓の血流を狭めそうな気がして、それが頭痛と関係あるのではないかと思うのですが?


 確かにトリプタンは血管を狭くしますので血管障害の危険は高くなります。先ほどお話したと思いますが、脳血管障害と心筋梗塞発症の危険率が高まるというのは一般的には言われていて、そのような疾患の既往のある方には使ってはいけないと言われていると思います。実際、お手元の説明書にもそう書いてあると思います。ボストンのグループがスマトリプタンを2万例以上使って報告しています。彼らによりますとスマトリプタンを使用した2万例のうち心虚血のイベントが20〜30例あったそうです。しかしそのほとんどの発症はスマトリプタンの投与から一月後ぐらい経過してからで。すおそらく因果関係は無いだろうと言われています。1例だけ飲んだ直後に心筋梗塞を起こしたので、これはもしかしたら関係かも知れない言っております。
  ご質問の女性ホルモン、そういうお薬を飲んでおられた方・・・私が京都市立病院時代に脳梗塞で入ってこられた方が何人かございましたので、には注意が一般的に要ると思います。女性は生理に関連して、例えば生理が始まるときに激しい片頭痛発作をおこします。一方妊娠中には片頭痛発作がなくなる人が多いです。従ってホルモン剤使用で生理をとめてしまうと片頭痛は起こりにくくなるのではないでしょうか。
 ちなみに、スマトリプタンを注射して直後にMRangiographyIを撮りますと、若い女性の脳血管が糸のように細くなっていて肝を冷やすそうです。注意は要るかなと思います。
米国での10年以上にわたる臨床経験の報告と国内での2年の使用経験の結果をみても正しい使い方をした場合のトリプタンの安全性は確立されているように思います。


先生の診療所は神経内科ということですが、今回お話してくださった片頭痛以外の診療内科領域の鬱も見ていただけるのですか?


 私の診療所は神経内科を中心にしていますので、ご紹介の患者さんはほとんど頭痛を初めパーキンソン病、血管障害、アルツハイマー病などの神経内科領域の患者さんです。紹介ではなくご自分の判断で神経内科を受診される方の中にはやはり鬱の患者さんが多いです。
 最近は副作用が少なくかつ効果発現が速やかである抗鬱薬のSSRIが使えるようになり「うつ」の診療は大変やりやすくなりました。そのため私の診療所でも割合に「うつ」を多く診させていただいております。


先生、貴重なお話をありがとうございました。