「産婦人科と漢方」
医療法人メディカルウェルフェアー
 きゅうまウイメンズクリニック  院長  久間 正幸  先生
 産婦人科で漢方を使っていますので、その経験からお話させていただきたいと思います。
<漢方の診断で必要な部位とその判断>
脈で診断 脈が浮いているか沈んでいるか、強いか弱いか
舌で診断 全体が赤いか 紫に見えるのは血の所見 舌の苔の状態
腹で診断 肋骨の下 腹の弾力性
きょうきょうくまん
胸脇苦満
肋骨の下の反応 柴胡剤の処方を使うことが多い
しんかひこう
心下痞硬
みずおちに抵抗を感じる
しんかけんまん
心下堅満
みずおちの抵抗感がかなり強い状態
いないていすい
胃内停水
胃のあたりで水音がする
へその周囲の動悸 臍の周囲での動悸 神経が高ぶっている時にあらわれる
腹直筋の緊張 両側の腹直筋の全部か、上下半分が緊張している状態
へその周囲の抵抗と圧痛 臍の周囲・腰骨結ぶ線上で抵抗があり、押すと痛む
血がウッ滞して起こる下腹部の抵抗と圧痛
回盲部の圧痛点 臍のそばの圧痛点
せいかふじん
臍下不仁
へそ下の腹力が低下している
腸の蠕動亢進 腸の動きがよく見える
診断や診断の方向性
処方 上記を考慮して使用する漢方薬をきめる
漢方の基本理念
気 血 水
 ・気:生命活動を営む根源的エネルギー 生命の機能の維持
 ・血:生体を物質的に支える赤色の液体→生体の構造の維持
 ・水:生体を物質的に支える無色の液体
  (症例から学ぶ和漢診療学より)
 ・虚 実:動因された気血の量、力による判定
 ・陰 陽:生体の修復反応の性質(新陳代謝の状態)
病気に対して身体が戦おうとする力があるかが虚実気血水が病状に対して適性に作用していれば、病気は発現しないと考える
妊娠中、産後の各種異常の漢方処方例
<症例1:産後の湿疹> 
 産後3ヵ月頃から体全体に湿疹が出現
漢方医学上の所見(証の判定)
 脈診:沈細、 舌診:紅(尖) 紫温 白薄苔、
 腹診:わずかに胸脇苦満 腹力弱 腹直筋緊張 臍上悸 振水音、
 主証:気虚、客証:水毒 血(産後)、 処方:補中益気湯 当帰勺薬散
・湿疹は消失した。
 ・補中益気湯 中(消化器系)を補い、気(穀物・大気中)を益す
 ・当帰勺薬散 血虚、水毒、 血(血の滞り、巡りが悪い)に対する方剤
           36週以降は使用しないほうがいい(お産がとまる)
  (女性の月経、妊娠、出産に関する異常に当帰}薬散は第一選択として用いられる)
 当勺美人:痩せ型、蒼白、なで肩 筋肉がしまりなく水気がある
<妊娠と漢方>
 ・妊娠は虚証である
 ・胎児は血の源である
 ・妊娠に対する漢方薬の分類
    安胎薬→当帰勺薬散(虚証の血の薬)、
    慎用薬→駆血薬(桃仁、牡丹皮)、大黄の入ったものは慎重に使用
    禁忌薬→エキス剤にはほとんどない。動物性生薬、鉱物など
 ・妊娠時の風邪、便秘の漢方薬について
  葛根湯は実証の風邪薬、附子にも注意(麻黄附子細辛湯→陰証)
  桃仁、牡丹皮の入った便秘薬は使用しない
妊娠中、産後の各種異常に対する漢方治療
 感冒 < 初期 桂枝湯,香蘇散
麦門冬湯,参蘇飲
便秘 大黄甘草湯,調胃承気湯
妊婦悪阻 小半夏加茯苓湯,人参湯
妊娠時腰痛 当帰勺薬散,勺薬甘草湯(屯服)
こむらがえり 勺薬甘草湯(屯服)
妊娠中毒症 当帰勺薬散,五苓散,柴苓湯
冷凍予防
習慣性流産
当帰勺薬散
不正出血 キュウ帰膠ガイ湯
産後の回復 当帰勺薬散,
後遺陣痛 当帰勺薬散,
産褥期神経症 女神散,加味逍遥散
乳汁分泌不全 葛根湯,十全大補湯
貧血 十全大補湯
(医師会雑誌の特集号より vol.108 No5 以下同じ
更年期障害の漢方処方例
<症例2:更年期障害について>
 現病歴:半年位前から体がふらつく、頭が何かに包まれた感じ、左肩が凝る。
 お腹から不安が突き上げてくる。みぞおちに何か(不安)が詰まった感じ。
漢方医学上の所見(証の判定)
 脈診:沈細、舌診:微紅 茸状乳頭 白薄苔、腹診:わずかに胸脇苦満? 臍上悸 腹力は中
 証:気弱 奔豚気(豚がお腹の中で走り回っているような、
   お腹から不安が突き上げてくるような)、
 処方:苓桂甘棗湯苓桂朮甘湯甘麦大棗湯
二診(2週間後)
 主訴:みぞおちが詰まる。不安感は少し取れた。ふらつきあり。外出すると不安。
 処方:柴胡桂枝乾姜湯 半夏厚朴湯(柴朴湯の方意 デパス併用)
・不安感が軽減、外出できるようになった。過呼吸が少なくなった。
<症例3:更年期障害について>
 現病歴:2年前に閉経、1年前より疲れやすい、夜が眠れない、汗をよくかく、
 左手が痺れ易い(X−P検査では異常なし) 高脂血症、訴えが多い
漢方医学上の所見(証の判定)
 脈診:沈細、舌診:紅 湿 黄浄苔 舌下静脈、腹診:胸脇苦満 心下痞硬 腹力は中
 証:気虚 柴胡剤 血 裏熱、処方:加味逍遥散 麻子仁丸 グランダキシン
・痺れがとれた、不眠も軽減、しかし訴えは次々と出てくる。
<症例4>
 主訴:体の不調 下腹部の膨満感、
 現病歴:半年前より生理がない。その頃よりお腹が張る、下腹部が出てくる。
 朝方からだ左側に痺れ感。
 現症:腹部はそれほど膨らんでいるようには見えない。
 腹部の触診で腸の働きと共に音が鳴る。(他院で大建中湯を処方されている)
 朝方は元気だが午後に倦怠感。冷え性、便秘なし
漢方医学上の所見(証の判定)
 脈診:沈細、舌診:紅 湿 白薄苔 茸状乳頭、腹診:胸脇苦満 振水音 臍上悸 腹力弱
 証:気虚
 処方:補中益気湯
・効果は劇的で膨満感は消失
・お腹が出てくる、子宮脱、胃下垂という症状は、中気下陥と呼ばれる。
更年期障害の病態と薬剤の選択
漢方名 体質 症状
当帰勺薬散 ─弱─ 貧血,気虚傾向,足腰の冷え,頭重,めまい,易疲労,下腹痛
加味逍遥散 ─やや弱─ 冷えのぼせ,いらいら,易怒,頭痛,肩こり,不眠,不安,易疲労
女神散 ─中間─ のぼせ,めまい,気うつ,不安感,不眠,頭重,動悸,下肢の冷え
桂枝茯苓丸 ─中間─ 頭痛,舌緑暗紫色化,小静脈のうっ血,皮膚の荒れ,下腹膨満感,月経異常
柴胡加竜骨
牡蠣湯
─やや強─ 不安,不眠,驚きやすい,動悸,季肋下の重苦しい感じ,臍傍の動悸
月経困難症、月経前緊張症の漢方処方例
<症例5:下腹部痛、月経痛が強い>
 現症:子宮前屈、正常大、左附属器あたりに抵抗圧痛。頚膣エコー上径4cmの腫瘤?便秘あり
 既往歴:5年前両側チョコレート嚢腫手術
漢方医学上の所見(証の判定)
 脈診:沈弦、舌診:紅 お斑 白苔、腹診:胸脇苦満 心下痞硬 小腹急結 腹力中〜強
 証:血 柴胡剤、処方:桃核承気湯
次回の生理痛は改善した。エコーの腫瘤は縮小した。
<症例6:月経痛>
 現症:子宮前屈、正常大、附属器触知せず、便秘高度、TVエコー右卵巣軽度腫大
漢方医学上の所見(証の判定)
 脈診:沈弦、舌診:紅 湿 茸状乳頭 歯痕 白薄苔、
 腹診:胸脇苦満 心下痞硬 腹直筋緊張 腹力中
 証:柴胡剤 
 処方:四逆散 分3食間7.5g、桃核承気湯 眠前2.5g、
    勺薬甘草湯
 生理2日間より服用1日2.5g
・経過:次の生理痛は改善した。便秘はまだあり。
月経困難症、月経前緊張症の薬剤の選択
漢方名 体質 症状
当帰補中湯 ─弱─ 腹直筋の緊張,月経全期間中の疼痛,月経終了近くに症状の悪化,易疲労
当帰勺薬散 ─弱─ 冷え性,貧血傾向あり,めまい,易疲労,子宮発育不全のもの多い
桂枝茯苓丸 ─やや強─ 顔色よい,のぼせ,下腹 膨満感,舌の紫色化,下腹に抵抗と圧痛のある硬結,子宮筋腫,子宮内膜症の場合によい
桃核承気湯 ─強─ 上衝,便秘,月経痛強い,月経時精神異常傾向,左腸骨嵩に索状硬結あり,擦過により急激な疼痛を認む
その他の漢方処方例
<症例7:妊娠20週で感冒様症状 午前、午後で証が変わった症例
 主訴:咳、鼻水が1昨日より
漢方医学上の所見(証の判定)
 診察午前→熱:36.8℃、脈診:沈 滑、舌診:微紅 白薄苔、
 処方:苓甘姜味辛夏仁湯 イソジンガーグル
 診察午後→熱:38.2℃、脈診:浮 数 緊、舌診:やや紅 白薄苔、わずかに汗
 処方:桂枝湯 クラリス 頓服カロナール
<症例8:不正出血>
 現病歴:3年前より不正な出血が月に半分ぐらいある。
      近医にて子宮入り口に炎症があるといわれた。
      右にバルトリン嚢腫がある。
 現症:子宮前屈、過鶏卵大、附属器触知せず 子宮膣部腫大 びらん大 易出血性、
     帯下 黄色多
漢方医学上の所見(証の判定)
 脈診:沈弦、舌診:微紅 湿 歯痕 白薄苔、腹診:胸脇苦満 腹直筋緊張 腹力中強
 証:下焦の湿熱、柴胡剤 血、処方:竜胆瀉肝湯
・不正出血 帯下の改善を認めた。クラミジア子宮頸管炎であった。