「産婦人科で出来る心身医療」
木内女性クリニック  木内 千暁 先生
女性クリニック(婦人科・心療内科)の開院目的と現在の患者の傾向
目的:女性のトータルプライマリケア(更年期患者約3倍)
特徴:一般外来と女性心身外来(予約制)
 ・さまざまなライフサイクルにおいて生じる女性特有の心身症から精神的トラブルのケアを行う。
 ・心理療法としては行動療法中心で、心理テストなども利用して「自分への気づき」をすすめる。
 ・自律神経失調症には、GSRを用いた自律訓練法を指導する。
 ・更年期治療には、ホルモン剤のみならず向神経薬、漢方薬、イソフラボンも用いている。
女性心身外来
全般性不安障害 
パニック障害
更年期うつ病 性交障害 
性全般の問題
PMS PMDD 
(月経前症候群、
月経前不快気分障害)
産褥精神障害 心身症
医師による診療:1回30分(保険:心身医学療法=90点) 
カウンセラーによるカウンセリング:1回30分から60分 自費
心理テスト:CMI TEG SDS MAS 描画テスト Y−G
心理療法:行動療法 認識行動療法 交流分析療法
       家族療法 自律訓練法 など
心身症について
心身症の定義:身体疾患の中で、その発症や経過に心理的社会的因子が密接に関与し、気質的ないし機能的障害認められる病態を言う。ただし、精神障害に伴う身体症状は除外する。
(独立した疾患単位を示す言葉でなく、身体疾患の中で心身相関の病態が認められる場合を言う)
心身症のメカニズム(ストレスモデル)
心理社会的要請
(ストレッサー)
心理社会的資源
(コーピング資源)
           ┗━━━━━━━━┳━━━━━━━┛    ↑
環境因子 ━ ストレス 認知力
心理的対処
社会支援
過去体験
パーソナリティー
行動パターン
心理生物学的反応
生活習慣 ━    ━━━┫
心身症の発症
「簡単な例をあげますと、災害により一地域の人たちが、同じような被害をうけたとしても、翌日から前向きにボランティアを行う人もいれば、うつ状態になる人もいます。これは深層状態といい、ストレッサーが強くても、本人がそれでも打ち勝つ状態であればストレスにならない、ストレス化しない。つまり、その人の環境因子や、その人の性格、行動パターン、過去の体験、辛い思いをして這い上がった実績があるかとか、周りの支援、それをどう受け止める力があるかということが非常に関与しています。その人間の体験したもの、もしくは置かれる環境によってストレッサーの大きさが決まります。
ストレッサーがその人の持っている社会資源によってストレスになるかどうかというのはすごく変わってきます。ですから、ストレッサーとイコールではありません。このストレスが体に加わりますと、いろいろな生活習慣でのたばこを吸う人、夜に睡眠が非常に少ない人、それぞれの人の生活習慣に加わると心身症というものが発症いたします。心身症はさまざまな因子から発生するということです。
生活習慣病
 ・人間の良くない生活習慣から起こる慢性の病気
「生活習慣病というのは心身症の一つで、人間の良くない生活習慣から起こる慢性の病気です。全国で15%くらいの人が骨折で寝たきりになり、それ以外では、食生活の問題、運動不足、食事の問題、ストレス社会など、さまざまなものが生活習慣病を起こしています。」
心身症と生活習慣病
 ・呼吸器 喘息 過換気症候群
 ・循環器 高血圧 狭心症 心筋梗塞 不整脈
 ・消化器 消化性潰瘍 過敏性腸症候群 慢性胃炎・膵炎 潰瘍性大腸炎
 ・内分泌・代謝 糖尿病 肥満 甲状腺機能亢進症 痛風
 ・神経・筋肉系 緊張性頭痛 片頭痛 自律神経失調症 リウマチ
 ・その他 更年期障害  麻疹 円形脱毛症など
心理テスト
 クッパーマンスコア :更年期のスコア
 SQR-D SDS :うつスコア
 Y-Gテスト :生活テスト
 TEG :自我エゴグラム
 CMI :健康調査
「一般の婦人科外来で利用できる心理テストを挙げてみましたが、その中でも産婦人科で参考に出来る心理テストはTEGで、自我エゴグラムといわれるものがあります。TEGはその人の自我、自我というのは自分が何であるか、自分が何をしようとしているか、自分の強さ、もしくは自分の考え、自分の行き方などをきちんと表現しているかを見るものです。このエゴグラムは小さい時からの育った経験や、その人の環境因子が大きく左右して、例えば、結婚して子どもがいるのにエゴグラムをしてみると、自我が低い方なんかは育児の問題が起こりやすい。マタニティブルー、産褥うつなどが起こりやすい。詳しい見方は心理テストで説明されていますので、それを参考にされたらよいと思います。
例として、妊娠で通院されている患者さんにエコグラムを実施し、自我が非常に低い結果が出た場合は、要注意で診療を行う。さらに、きめ細かい指導を行うなど、診療での対応で注意をすることが出来ます。」
更年期を迎えた女性の精神的問題
女性のライフサイクルにそっておこる精神的問題
中高年の一般的心理
中高年危機(mid-life crisis)
空の巣症候群 
荷おろし症候群 
漠然とした不安

パニック障害 
更年期うつ病 
自律神経失調症
更年期のメンタルケア
 ・更年期のうつ症状は、HRTのみでかなりの改善がある
 ・すぐに精神科にまわすと信頼感が低下し、向精神薬でさらに状態が悪化するものも多い
 ・家庭環境・職場環境など外的因子が関与していることが多い
 ・婦人科で向精神薬を用いる場合は、今の病態と薬の治療による効果、
  副作用につきしっかり説明する
 ・心理療法の必要性を見極め、必要なら専門家の力を借りる
      ↓
 軽い薬物療法と傾聴・共感の姿勢をとりながら経過を見ることがよいと考える

婦人科(女性心身外来)に相談におとづれる心身症および精神疾患
 無月経→摂食障害 20%
 月経前症候群・月経前気分不快障害 15%
 全身倦怠感→不登校 2%
 動悸・ほてり・うつ・倦怠感→更年期障害 30%
 全身倦怠感→甲状腺機能異常 2%
 全身倦怠感→膠原病・自己免疫異常 1%以下
 動悸・不安→パニック障害 3%
 頻尿→心因性頻尿 2%
 妊娠中および産後のうつ状態 5%
 不安愁訴 15%
 人格障害・社会適応性障害・強迫性障害など 5%
経口避妊薬の副効用
減少する疾患 相対危険度・(RR)
子宮内膜症 0.5
卵巣癌 0.3
機能性卵巣脳腫 0.4
骨盤内炎症性疾患 0.5
子宮外妊娠 0.1
良性乳房疾患 0.5
※相対危険度(RR)はピルを使用しない場合を1.0とした
月経に関する副効用
減少する疾患 相対危険度・(RR)
月経前症候群(PMS) 0.7
月経困難症 0.4
月経不順 0.7
鉄欠乏性貧血 0.6
月経過多症 0.5
※相対危険度(RR)はピルを使用しない場合を1.0としたとき
HRTと低用量ピルの違い
HRT 低用量ピル
エストロゲン 使用薬剤 結合型エストロゲン(CEE)
17β・E2 E3など
エチニールエストラジオール(EE)
使用量 5μgEE=0.625rCEE
低用量ピル1錠に含まれているエストロゲンの力価は、
プレマリン0.625r錠の6〜8錠に相当する
プロゲストーゲン 使用薬剤 主に酢酸メドロキシプロ
ゲステロン(MPA)
ノルエチステロン(NET)
レポノルゲストレル(LNG)
使用量 プロゲスト−ゲンの投与総量は黄体ホルモン活性をMPAに媒体して、
LNGではHRTの半量、NETではHRTとほぼ同量
「私は非常に大事な話だと思っていますので話をさせていただきます。ホルモン療法は産婦人科の先生方は、処方されることが多いと思います。そのなかでも低用量のピルについて、非常にホルモン量が少ないものだと思われて使われることが多いと思いますが、実はエストロゲンで考えますと、低用量のピル1錠に含まれているエストロゲンの力価はプレマリンの6〜8錠に相当いたします。低用量ピル1錠でこれだけの力価になってしまうということで、かなり強いホルモンであるということを把握していただきたいのです。ですから、低用量ピルは40歳以上の方には禁忌ではありませんが、血栓症などに留意して使ってください。
PMSとPMDDについて
・PMS(premenstual syndrome)(広義):
性成熟期の女性20から40%にみられる月経前(黄体期)3から10日続く精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減退ないし消失するもの
少なくとも2サイクルの期間認められるものとする

PMSの診断基準
(1)DSR(The Penn Daily Symptom Report)のスコア合計(症状のある黄体期5日間)が80以上
(2)月経後スコア(卵胞期CD5−10)の5日間の合計と比較する月経前(黄体期)5日間合計が50%以上増加するもの
・PMDD(premenstual dysphoric disorder):
PMSの2%から5%にみられる日常生活のQOLを著しく障害するもの 気分変調を主とした精神症状が強い



PMDDの診断基準
DSM−Wの月経前不快気分障害の研究用基準案を使用
PMS/PMDDの成因
 ・ホルモンアンバランス説
  エストロゲン・プロゲステロン 高PRL血症 甲状腺ホルモン異常 耐機能異常
 ・水分貯留説
  レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系異常
 ・神経伝達物質 セロトニン分泌異常
 ・脳内GABAの低下
 ・ビタミン欠乏症   など
月経前症候群の症例紹介
<症例> 38歳主婦
主訴 月経前気分変調
「4カ月ぐらいから急に泣きわめいたり、日常生活が普通に送れなかったりというような症状が周期的にあり、最近になって月経との関連があると気づき、受診されました。心理テストでは、SDS(うつスコア)が55点で、これは状態が悪い時にやりましたから、スコアとしてはうつと判断できる値です。それから、複眼スコアというのがあるのですが、普通、バスコアと言いますが、抑制不安が非常に強いということ。あと日常生活のDSRも月経前は82と非常に高い値から月経後は不快感の方がゼロになるということで、月経後の月経でもスコアは完全に違って、これは月経前症候群の中ではPMDD、月経気分不快障害というものに当たるという診断をしました。」
主症状 
@言葉が出ない、記憶が無い、自分が自分ではない
A食事メニューが決められない、家事ができないほど判断力が欠除する
B泣き喚き、動かなくなり、またずっと寝るなど気分変調が強度
 ・PMSはしばし遭遇する疾患であるが、診断確定するためには基礎体温、
  DSRや心理テストが必要である。
 ・PMDDの重症例にはまったく日常生活が送れないものもある。
 ・PMDDにはSSRIが効果的で、安定剤に比べ、依存性・副作用が軽いのが特徴である。
「このような症状が出た場合は、SSRI、商品名を言いますけれども、フルボキサミン・パキシルなどが効果的で、安定剤に比べ、依存性・副作用が軽いので、非常に月経前症候群には効きます。こういう患者さんがありましたら一度SSRIを投与していただくのもひとつだろうと思います。先ほど言いましたようにピルなどで排卵を抑えてしまうという方法も効果的です。」
若年層の月経前症候群
<症例1> 17歳 高校生
主訴 月経前気分変調
「この方は話せない、電話も出られない、食事もできないということで治療したそうです。最初、精神科に2年ほど通っておられたのですけれども、全く効果が無くて、最近になって月経との関連があると気づき、当院に受診、月経前症候群と診断をし、治療行いました。ですから、産婦人科ならではの疾患診断ができて治療ができるということがよくあるわけで、精神科に来て2年経っても分からなかったのが産婦人科で分かったという例です。」
DSRの変化と検査データ

症例1 17歳高校生 月経前気分変調
「月経前に300ぐらいのDSRで、非常に状態が悪い形で、月経前は不登校でした。そこで、当院でSSRIによる治療開始し通学ができるようになりました。
SSRIのお薬の中でフルボキサミン、パロキセチンがありますが、パロキセチンでパキシルという薬が最近になり10代に投与すると自殺の恐れがあるということで、投与禁忌とお達しが出ました。ただし、これは18歳未満、大うつ病の10代の患者さんに関しては禁忌ということで、それ以外の目的で利用する場合には先生の判断によるという薬の注釈が付いております。ですので、私はあまりパロキセチンは10代の子には使いません。ルール記載の問題ですけれども、フルボキサミンに関しては同じSSRI、抗うつ剤ですが、特に10代の使用禁忌というお達しは今のところ出ておりません。フルボキサミン・パロキセチンとも抗うつ剤に分類されるお薬ですが、アメリカでは月経前症候群も保険適用を取っております。しかし日本ではまだ月経前症候群で保険は通りません。うつ病という病名をつければ保険は通ります。」
治療内容と継続率
−2001.5〜2003.12−


PMS/PMDDと投薬治療
−2001.5〜2003.12−

「月経前症候群に関して言いますと、ピルを利用する例は21%、SSRI,抗うつ剤で治療したのも17%、漢方だけを治療したものもあります。当然軽いもので月経前にイライラだけがある、眠れない方だけの場合は安定剤を使用する場合もあります。ピルとSSRIの両方を比べて継続率を見てみましたところ、ピルの場合は、ピルが嫌う人が多いと言いながら抗うつ剤の薬と言ってしまうと、なかなか患者さんは怖がって、嫌がって飲みません。ですが当院では、SSRIは月経前症候群、そして摂食障害、さまざまな広い範囲の神経症状を含めて利用できる抗うつ剤の中では非常に安全性の高い、利用数の高い薬であると説明した冊子をつくっております。そのおかげで、最近では非常に効果があるということで喜んで使っていただいています。SSRIとピルをどのように使い分けているかと申しますと、例えば体がだるい、しんどい等の身体症状、体の症状が強い人はピルで治療、精神症状が重いものはSSRIで治療しています。」
<まとめ>
 ・登校および日常生活に異常をきたす中高生の月経前症候群(不快気分障害)を経験した。
 ・SSRIが効果的を示し、セロトニン関連疾患との考えを強くしたが、効果不十分な場合
  排卵抑制が治療効果を出す。
 ・この3例以外のものも含めてPMDDとE2・PRGの関連性はみつからなかったが、
  もっとも重症であった症例1ではPRGが高い傾向にあった。
 ・学校側もPMS/PMDDの病態の認知を薦め、月経痛ふくめ月経関連疾患の正しい扱いを
  していくことが必要と考える。
更年期障害と間違えられる症例
<症例1> 45歳
主訴  全身倦怠感
既往歴  10歳 卵巣嚢腫で片側全摘 32歳 卵巣嚢腫摘出
現病歴  術後卵巣機能残らず、40歳ごろより更年期症状あり、漢方クリニックで治療中
      だったが、かなり倦怠感つよいため、漢方クリニックの勧めで、HRT希望来院された。
来院時所見  骨量%TAM:89% 尿中DPD2.3 T.CHDL287 TG3.6 HDL92
          その他正常範囲  FSH75 E10以下
経過  2002年3月よりE2貼付剤+PRGによる周期的HRT開始
     2003年6月 右半身の機能がなんだか落ちているような気がする。
     加齢ドックをうけサブリメント開始。いわゆる抗酸化現象は年相当。
     2003年8月 筋力右低下 全身倦怠感があり、びっこひく、しゃべりにくい。
外来の視診では、以前とは確かに違うと感じる。そこで・・・
経過  2003年9月K病院(神経内科)で検査、原因不明、パニック障害かヒステリー症状かと
     いわれる。
     不安と軽度の落ち込みありスルピリド80r/日投与
実際この時点でしゃべりかたもゆっくりになり、明らかに進行性である。器質的疾患のごく初期の可能性あると見解をのべた。
     2003年10月 大学病院で筋電図などもっと詳しい検査するが、95%心療内科の範疇と
     いわれる。
     大学心療内科→心身症の可能性が大きいので、当院へ再紹介となる。
この時点で絶対器質的疾患を疑う。
     2003年11月 筋電図やはり少し異常あり。11月から12月入院検査予定
     2004年2月 ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis 筋委縮性側索硬化症)と判明、
     リルテック内服開始  HRTはもうしばらく継続決定
<症例2> 44歳 既婚
主訴  筋肉痛 痺れ
現病歴  全身倦怠感、うつ気分、首から背中、肩、腕にかけての痺れと痛み。腰から背中も
      こわばり、太腿から下肢にかけての痺れと痛み、頭痛、不安、不眠、全身の関節痛が
      強い。
       月経不順もあり、更年期障害と指摘され1998年39歳のとき初診となる。
来院時所見および情報
       内科で膠原病はじめかなり詳しい検査をしたが異常なし。整形外科でも異常なし。
       FSH80 E210以下 子宮卵巣萎縮。
治療経過  低エストロゲン症状と加齢変化からきたものの両面からHRTは不可欠と考え
        施行した。
        アルプラゾラム、スルピリド、VB・Eの投薬と抗うつ剤の利用も試みた。
〔焦燥期および自己嫌悪期〕
心気的な訴えをするばかりで、頻繁な他科受診や検査を希望し、本人の不安をとりさるために否定することなくさまざまな検査や投薬も試みた。
どこへ行っても異常なしとか心因性と言う診断を受けることで「器質的疾患が見つからないこと=治らない」という焦燥・不安が生じ、また本当は異常がないのに自分が病気をつくろうとしているのではないかと考え始め、自己嫌悪がみられるようになる。
傾聴と支持に専念し、「異常が見つからないということは死ぬとか進行する病気ではないこと」「生活習慣の改善で糸口が見つかる可能性」を中心に認知療法をおこなった。
〔うけいれ期〕
2001.6月大学から筋緊張性障害なる病名がつけられて検査先から帰ってこられた。アルプラゾラムだけの投薬であった。整形では3件目の検査だった。
さまざまな角度から検討し、
 @3ヵ月以上つづく広範囲の疼痛
 AACRの圧痛点が陽性で当院で腺維筋痛症と診断、患者に伝える。
ただこの病気は治療する方法はいまのところなく今までのように対症療法とか抗うつ薬や安定剤しかないことを知り、逆に安定剤を減量し、運動療法と漢方療法+加齢予防のHRTを50歳まで希望され、現在QOLの低下なく、疼痛と共存されておられる。

検討1 −患者心理−
診断がつくまでに要した時間 診断がつくまでの期間に最もストレスであったこと
症例1
筋委縮性側索硬化症
8ヶ月 自分では進行していく筋力低下があるが、診断がつかないとどこにいっても精神的なもの(心身症)という方向づけがなされた
症例2
腺維筋痛症
約3年 何回もたくさんの科の診察を受け、どこへいっても精神的に病んでいるというような冷たい目で常に見られた
・更年期障害ということはどこでもきかれた。
検討2−診断にいたるポイント−
 ・症状が進行性であるかどうか
 ・疼痛点(病変部位)がある程度固定しているかどうか
 ・症状に説明のできる関連性があるか
 ・医学的に器質的異常として理解できるか
 ※同じ医師が継続して患者を見ることができる情報は多い
 ※全人的医療には症状関連性をみとめやすく、診断につながりやすい
心身症の治療
1、薬物療法
 ・安定剤・睡眠薬
「睡眠薬や安定剤は、ほとんどベンゾジアゼピン系で、最近ではベンゾジアゼピン系で、依存性が低いとうたったものも出ています。商品名でいいますと、ハルシオン(べ)・マイスリー・アモバン(非)などは、超短時間型で結構早く切れるけれども早く血中濃度が上がって睡眠導入の効果が得られます。このように睡眠導入のために投与するものと、あとは持続時間が次に長いものでレンドルミン・リスミー、そしてあとはロヒプノール・サイレースなど長くなります。睡眠薬を使用する場合の注意点は、高齢者の患者さんに長時間型のものを渡してしまいましと、非常に持続してしまって朝に起きられないし、代謝が悪いので転んだりして非常に危ないので、比較的短時間型のものをお渡しして飲んでいただいています。50代では中時間型を処方しますが、寝入りが悪い、いわゆる睡眠に入りにくい方は超短時間型をお渡しするのがよろしいかと思います。睡眠薬をお渡しする場合は、患者さんの年齢や生活習慣・睡眠の形態なども考慮にいれて、処方しますと、大変喜ばれます。」
 ・(以前からある)抗うつ剤 三環系・四環系・スルピリド
「抗うつ剤は三環系・四環系といって、昔からの古典的な抗うつ剤、アナフラニール、トリプタノール、トリフラニール・アモキサンがありますけれども、三環系という抗うつ剤は心毒性、心臓に対する毒性があります。そして、抗コリン作用などもありまして、喉が渇く、尿が出にくくなることなどもあります。倦怠感・眠気も比較的強いです。
 四環系というのは、この副作用を軽くした新しい新時代型の抗うつ剤と呼ばれた抗うつ剤ですが、これでもやはり先ほど言ったように副作用が多少出ます。
 私が比較的好きで使いやすいのはスルピリド(商品名:ドグマチール)です。これは内科でも、婦人科でも使いやすい。ただ、月経のある患者さんに使いますと、月経が止まってしまったり不順になりますから、若い患者さんに使うのは不向きです。スルピリドは、閉経した更年期の方に向いていて、胃薬としても使いますので、食欲がでます、元気になります、眠くなりませんということで、お出ししますと、1週間ぐらいでとても元気になったと言われて、感謝されることが多いです。われわれ開業医にとっては、即効性というのは非常に大事ですので、即効性を狙えば軽い鬱はスルピリド(ドグマチール)を足していただければよろしいです。
 スルピリドは普通出す場合は100mgぐらいだけで十分だと思います。軽い方は50mgぐらいまでで十分です。これは細粒もありますので、10mgでも20mgでも大丈夫です。分1〜分2でも、ちょっとした落ち込みの患者さんにはとても効きます。」
 ・(新しい抗うつ剤)SSRI・SNRI
「最近発売されましたSSRI・SNRIの商品名は、パキシル・デプロメール・ルボックス、この三つの製剤が日本で発売されております。SSRIの特徴は胃がムカムカし始めることです。ですので、胃の調子が悪くて、食べられなくて落ち込んで体重が痩せてきた更年期の方には不向きです。それから、即効性がありません。効果が出るまでに2週間ぐらいかかります。ただ、スルピリドのように月経が止まるとか、プロラクチンのような副作用がありませんし、SSRIは習慣性がありませんので、胃の調子が悪くならなければ、SSRIというのはとても患者さんに対して毒性のない薬ではありますから、幅広くうつに使える薬です。それから、パキシルというSSRIは夕方とか夜に飲みますと逆に目が冴えてしまいますので、朝の処方がよいと思います。パキシル・プロラクチンの場合は非常に覚醒作用がある場合があると覚えていただく。それで、今言った三つとも胃が非常に悪くなることがあるということを覚えていただく。個人差はありますが、SSRIは2週間以降の効果で判断するということです。
SNRIの商品名はトリラホン、薬品名で言いますとミウナシクランと言います。このお薬はSSRIと比べても効果がSNRIの方が早くて強いし、効果が早く出やすいのと、併用禁忌のお薬が少ないので、早くうつを治したい方にはSNRIの方が試してみる価値はあると思います。SSRIとSNRIの使い分けを分かりやすく言えば、SNRIの方が元気が出やすい、即効性のある効果が強いものであると考えていただいたらいいかと思います。」
SSRI(フルボキサミン・パロキセチン) SNRI(ミルナシプラン)
神経伝達物質であるセロトニンの再取り込みを
阻害する薬物

 ・習慣性が低い
 ・高齢者でも安全性が高く、
 広範囲の症例につかえる
 ・うつ症状はじめ摂食障害(過食型)、
 強迫神経症、PMSなどにも応用可能
 ・効果的にはやや従来の抗うつ剤より劣る
 ・副作用として嘔気がでやすい
 ・効果発現に2週間程度かかる
神経伝達物質であるセロトニンとアドレナリンの
再取り込みを阻害する薬物

 ・高齢者でも安全に使える
 ・うつ症状に対しての効果が、
 従来の抗うつ剤にやや近い
 ・効果発現に1週間程度かかる
 ・併用禁忌の薬物がすくない
 ・躁状態を誘発しやすい
 ・HRT/ERT
 ・ピル

2、心身療法  われわれで行いうるもの
 ・支持療法・・・われわれが支持してあげる。患者さんにとって一番の相談相手になってあげる。
 ・行動療法・・・自分が不安に思っているものを曝露させることで、段階を踏んで少しずつ慣らして
          いく。
 ・認知療法・・・間違った認知・考えの勘違いをずっと諭していきながら理解させていく。
          医学的な観点から説明をしていくことで、間違った認知を違う方向に持っていく
          治療方法。
 ・交流分析法
 ・ブリーフセラピー
 ・自律訓練法・・・リラックスをさせる、リラクゼーションを行って、原因不明の動悸・不安をもつ
           人に、呼吸法として推奨されている方法。
3、生活習慣改善法  自分のどこに問題があるかまず気づきから・・・
 ・食事療法 基本は和食 バランス食
 ・運動療法 基本はウォーキングから
 ・生活改善療法 1日と1週間のスケジュール法
「スケジュールで決められたことが、できた、できなかったことを一つ一つ評価することで、心身症の治療になります。肩こりがウォーキングやエアロビックスなどの運動でで改善されたり、冷え性がシャワーだけの入浴を浴槽につかることでなおったりします。その人の生活習慣の中で心身症のお薬を使わないで治療ができるということはあります。」

まとめ
 ・婦人科医療は、女性科としての役割も持ち合わせていると考える。からだと心は常に連携して
  おり、ストレス社会の今日の婦人科治療において、全人的医療の観点から、「女性総合診療」を
  行いうる唯一の科と考えている
課題
 ・婦人科医の心身医学的知識の吸収
 ・婦人科での心身医療に対する保険医療
「一人でも多くの先生方に心身医学を理解していただいて、心身医学を受け入れて診療にいかしていただきたいと思います。開業医の先生方は、これからどんどん削られていく保険点数に対して、精神科以外の医師が心身症の治療をやった場合90点しかならないと考えずに、診療で患者を理解して治療を進めていく手段として取り入れていくのも、患者さんの満足度をあげる効果的な方法と思います。開業医ならではの発想かと思いますけれども、患者さんの話を聞いてあげた、そしてそれを治療に反映させるということであれば、やっていこうかなという先生も増えますし、技術うんぬんと言われる今の時代でも、これから自分が年々老いていく時にできる治療ということで、人の話を聞くということは本当に死ぬまでやっていける治療だと思います。ですので、産婦人科の先生方でも心身医学をやっていただけるようにわれわれも心療内科の先生方とさまざまな努力をしております。心身医学会、もしくは女性心身医学会もありますので、参加していただき勉強していただいて、興味を持つ範囲でよろしいですから心身医療を取り入れていただいて、患者さんに還元していただければ、産婦人科での心身医療も十分幅広くおもしろくなっていくのではないかと考えております。」
質疑応答
司 会 質問はございませんか?
質 問 月経前に頭痛があり外陰部がかゆくなるという患者さんがいたのですが、月経前緊張症でそのような症状がでますか?またピルの服用で症状は改善しますか?
木 内 月経の前に周期的にガンジタでる場合もあります。かゆくなる時期に検査をされたら、ガンジタかどうかわかります。頭痛ですが、ピルを併用しますと、ややガンジタが出やすくなる方がいますので、そこの点だけ注意していただければ、ピルを出すことでさらにガンジタを誘発しなければ、頭痛自体はピルで治まる可能性はあります。片頭痛の場合は留意して下さい。
質 問 月経前緊張症の場合、ピルはどのように効いているのですか?ピルはどのくらいの期間だしたらいいのですか?
木 内 排卵を抑えることで、月経前の黄体ホルモン、エストロゲンの増加を抑えます。月経前症候群は高温期に出るという特徴があります。排卵を抑制してあげないといけないものですから、ピルを使うとよいということです。
質 問 先生が低用量ピルやSSRIで治療されて、その有効率はどのくらいと感じられますか?
木 内 精神面に関しては、100%というぐらいは効きます。SSRIでは月経前症候群で精神的な気分のダウンに関しては効きますけれども、身体的不快感などの胸の張りは当然取れないのです。ただし、ピルを使いますと、排卵を抑えますので身体症状はある程度取れます。つまり月経前症候群というと精神障害ばかりではないので、どこにポイントを置くかということです。精神面ではSSRI、身体面では低用量ピルを用い、そのポイントに応じてお薬を使い分ければ、月経前症候群は減ります。
質 問 精神症状がある場合、それはSSRIとかで抑えられると理解しましたが、器質的な病気でない場合、例えば肩こり、乳房痛や頭痛は、SSRIとともに何を併用されるのですか?
木 内 SSRIとピルを併用します。SSRI自体は抗うつ剤ですから精神面しか改善してくれません。ですから、精神的に落ち込みが出る人、PMDDというような気分が落ち込みが強い人に関してはSSRIでいいのですけれども、月経前症候群というのは体のいろいろな不快な症状が出ます。体の不快な症状に関してはSSRIは効きませんので、ピルで排卵を抑制し月経前の症状を取ってしまわなければ良くなりません。ピルを使えば取れます。ですから、気分が落ち込むし、体も調子悪いし、全部駄目という人には併用することはあります。月経前症候群であれば効きます。しかし問題は月経前症候群であるかどうかで診断が違っていると、治療方法がかわります。うつ病という例もあるかもしれません。本当に月経前だけその症状が出る人であれば当然効くはずです。
質 問 月経前症候群は、何周期ぐらい排卵抑制をしたらいいのでしょうか。
木 内 本当に月経前症候群であれば、排卵抑制をしたその月から症状が出ません。しかし排卵を復帰させれば戻ります。患者さんが、ずっとその症状が嫌だと言う場合は、ずっとピルを続けていただいています。ピルはその時その時の排卵を抑制するということでの症状改善ですので、飲まないと結果がでないのですが、SSRIは1年ぐらい続けていただくと気分の変調などは出にくくなって、軽快していきます。ただ重症のものに関しては、中止が困難なものもあり、今後の課題です。
質 問 心身医療と違う質問ですが、中用量ピルのほうがよいと、希望される患者さんがいるのですが、低用量ピルと中用量ピルで、身体にあう、あわないがあるのですか?
木 内 低用量ピルを飲んでいる人に基礎体温をつけもらうと排卵している,低用量ピルでは排卵抑制ができない場合があります。例えば、月経前症候群で低用量ピルを飲ませても全然効かない。そこで基礎体温をとったら、しっかり服用しているのに排卵している。そうのような場合は中用量を服用してもらっています。ですので、その方は症状があって飲まれている場合、低用量ピルでその症状が取れないのでしょう。そういう意味でいいというだけで、あとは実際、ホルモン量は中用量ピルでしたら低用量ピルの数倍のホルモン量になるので、血栓などの副作用について十分理解してお使い下さい。
そのほか、中用量ピルは低用量ピルの価格より、1/8〜1/10ですので、その点もあるかと思います。
低用量ピルの妊娠率は、2%〜0.1%と聞いています。私の経験で、低用量ピル服用で3例ありました。
司 会 他に質問はございませんか?質問がないようですね。
木内先生、ありがとうございました。