「子宮内膜症:高精度の診断法と長期内分泌維持療法」

京都府立医科大学大学院医学研究科女性生涯医科学 助教授  北脇 城 先生
イントロダクション:子宮内膜症の定義
図01

図03
図02

図04
診断:外来診療における高精度診断法
図05
1. 自覚症状
 診断の第1歩は自覚症状である.最も重要なポイントは,子宮内膜症患者のうち88%が月経困難症を訴え,そのうち70%が鎮痛剤を必要とするほどの強い疼痛を有するということである.月経時以外の下腹部痛・腰痛は46%,性交時痛・排便痛は30%と,慢性骨盤痛は高頻度に認められる.不妊は30〜60%に認められる.(図04参照)
2. 理学的診断
・視診・内診
  稀ではあるが,色素性病変を発見できることがある.
・内診
  子宮は後屈で可動性に乏しいことが多い.
後腟円蓋からダグラス窩に有痛性の抵抗や結節状の腫瘤を触れることも多いので,できるだけ直腸診を併用する.
Beecham分類
Stage l 散在性の1〜2mmの内膜症小斑点を骨盤内に見る.開腹時にはじめて診断される.
Stage 2 仙骨子宮靱帯,広靱帯,子宮頸部,卵巣がいっしょに,あるいは別々に固着し,圧痛,硬結を生じ,軽度に腫大している.
stage 3 第U期と同じだが,少なくとも卵巣が正常の2倍以上に腫大している.仙骨子宮靱帯,直腸,附属器は癒合し一塊となっている.ダグラス窩は消失している.
Stage 4 広範囲におよび,骨盤内臓器は内診でははっきりと区別出来ない.
3. 経腟超音波断層法
 経腟超音波断層法は,簡便で情報量も多いため,初診時の内診とともにスクリーニングとして特に有用である.性交経験がない女性においても,経腟プローブを肛門より挿入することにより,意外に疼痛が少なく容易に検査を行なうことができる.
 卵巣チョコレート嚢胞は,壁の肥厚を伴う単房性ときに多房性の嚢胞として観察される.内腔の移動性の点状エコー(scatter)が特徴的である.
 ダグラス窩においては,経腟プローブを注意深く動かして子宮後面をたどって行くと,蠕動している直腸が子宮と分離しているかどうかが観察できる.子宮と直腸の間に低エコーで描出される少量の腹腔内貯留液が存在すれば,分離していることがわかる.強度のダグラス窩の癒着の場合には子宮後面が高エコーで縁取られる.さらに,術者の片手で患者の下腹部を押したり離したりすると,癒着がなければ子宮と直腸とがずれ動くが,逆に癒着があれば臓器は一体化している様子が観察できる.この補助動作は応用範囲がひろく,比較的容易に癒着の有無を診断することができる.
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4. 血清CA-125測定
 CA-125は卵巣癌細胞株の細胞表面の糖蛋白抗原に対して作られたモノクローナル抗体OC125によって認識される物質のことで,元来,上皮性卵巣癌や子宮内膜癌の診断を目的として血清中濃度が測定されている.子宮内膜症においてもその血清中濃度が上昇することが知られているが,カットオフ値を35 U/mlとしているのは卵巣癌や子宮内膜癌の診断のためであり,子宮内膜症の診断については別に設定する必要がある.しかし,現在までにはっきりした値は設定されていない.
 実際臨床でこのような血清学的検査が必要になるのは,チョコレート嚢胞を伴わない軽症の子宮内膜症の診断である.我々の検討1)では,内診および経腟超音波断層法やMRIなどの画像診断によって子宮腺筋症,子宮筋腫,卵巣腫瘍,骨盤内炎症,妊娠を除外した女性の中で,血清CA-125値が30 U/ml以上であれば,陽性的中率93%で子宮内膜症であると言えることが示された.しかし,20-30 U/mlでは診断は困難であり,20 U/ml未満の場合には陰性的中率78%,すなわち依然として22%に子宮内膜症が含まれていることがわかった.すなわち,30 U/ml以上であれば子宮内膜症を強く疑うべきである.しかし,低いからといってCA-125だけでは否定できない.
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5. MRI
 MRIにおいてチョコレート嚢胞は,T1強調画像,T2強調画像ともに高信号を示す.また,特徴的な所見として,T1強調画像で均一な高信号を示すにもかかわらず,T2強調画像で"shading"と呼ばれる低信号の部分が認められることがある.脂肪抑制画像を得ることにより,超音波断層法では困難であった皮様嚢腫との鑑別が比較的容易となる.
 しかし,チョコレート嚢胞の画像は多彩であり,しばしば卵巣悪性腫瘍との鑑別が困難なことがある.チョコレート嚢胞の1%が悪性転化し,上皮性卵巣癌の3.6〜28%に子宮内膜症が合併する.画像診断だけでは悪性を完全に否定することは困難であることを忘れてはならない.
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6.子宮内膜生検組織のアロマターゼ(一般化されていない方法)
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その他
 子宮内膜症を有する女性の正所性子宮内膜は,組織学的には正常と異なることはないが,分子レベルでの発現が異なっていることが報告されている.そのうちの1つとして,エストロゲン生合成酵素であるアロマターゼがある.このことを利用して子宮内膜生検組織でのアロマターゼの発現を調べることによって,診断に応用する試みが行われている2).
治療:長期内分泌維持療法
 月経困難症や慢性骨盤痛を主訴とする子宮内膜症患者に対する保存的療法として,多くがGnRHアゴニストによる内分泌療法を第一選択としている。この薬剤は,病巣を萎縮させるとともに症状を効果的に改善する。しかし,低エストロゲン症状による骨塩量低下のために6ヶ月をめどとして投与を中止する必要がある。その場合の多くは,エストロゲンの回復とともに約6ヶ月程度で病巣と症状が再発するという欠点がある。長期間にわたって症状が抑制された状態を持続させるにはなんらかの工夫が必要である。
 そこで,我々は低用量のダナゾール,あるいはエストロゲン-プロゲスチン(EP)合剤に着目した。これらは単独である程度の治療効果があるが強くはない。しかし,副作用が少なく比較的長期にわたって投与が可能であることが知られている。6ヶ月のGnRHアゴニスト投与後に,これらを投与することにより再発を抑制しながら長期間にわたって保存的に維持できるのではないかと考えた。
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 子宮内膜症がエストロゲン依存性に増殖および退縮することは疑いのないところである。エストロゲンは子宮内膜症組織に発現しているエストロゲン・レセプターを介して増殖を促進する。さらに組織内にはエストロゲン生合成酵素であるアロマターゼが発現している。したがって,体循環のエストロゲンに反応するだけではなく,アンドロゲンを基質として組織自身においてエストロゲンを産生してその局所濃度を高めて,その結果自己の増殖をさらに促進しているわけである3)。
 一方,健常女性の正所性子宮内膜にはP450aromは発現していない。ところが,子宮内膜症を有する女性の正所性子宮内膜にはこれが発現してくる。この患者に対してGnRHアゴニストやダナゾール療法を行うと子宮内膜症組織が萎縮すると同時に,正所性子宮内膜のP450arom発現も減少ないし消失する4)。そして,これらの内分泌療法を中止した数ヶ月後の症状の再発時には,再び正所性子宮内膜のP450arom発現が認められるようになる。
 P450arom抑制の機序を検討するために,子宮内膜症患者の子宮内膜にGnRHaを添加し培養を行ったところ,P450aromの発現に変化はみられなかった。対照的にダナゾールはP450aromを著明に抑制した。このことから,GnRHアゴニストがP450aromを抑制する機序は,子宮内膜に対する直接作用よりはむしろ視床下部-下垂体系を抑制することによって得られる低エストロゲン状態による二次的な作用であると考えられる。すなわち,中枢の抑制よりもむしろ低エストロゲン状態,もしくはそれに引き続いて生じる子宮内膜の萎縮が,P450arom発現抑制の主な因子であると推定される4)。対照的に,ダナゾールによるP450aromの抑制は,中枢を介した低エストロゲン状態に引き続く二次的な作用に加えて,少なくとも部分的には直接作用によるものであることが示された4)。ダナゾールは各ステロイド・レセプターに結合し,またアロマターゼをはじめとするチトクロムP450やデヒドロゲナーゼなどの多くのステロイド代謝酵素を直接阻害する。
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 これらのことから,正所性子宮内膜でのP450arom発現は腹腔内での子宮内膜症の活動性をよく反映している可能性が考えられる。したがって,用量依存性のあるダナゾールを低用量であっても長期に投与し続けることによって,正所性子宮内膜のP450arom発現を抑制するとともに,腹腔内での再発を抑制し続けることができると考えられる。
 今回の検討においても,低用量ダナゾールはGnRHアゴニスト投与終了後より平均28ヶ月以上連続投与することができた。その間,自覚症状,CA-125値,卵巣チョコレート嚢胞の再発を抑制し続けた。そして正所性子宮内膜のP450aromの再発現を抑制し続けた。副作用としては,低用量であっても本剤特有の症状である体重増加は必発であった。その他,男性化,肝機能異常なども頻度は少ないが伴った。また150mg/日以下とすると不正出血や月経が起こる場合があったが,ほとんどが軽症であり自然止血した。
 EP合剤を用いた子宮内膜症の治療は偽妊娠療法として40年以上の歴史がある治療法である。そのステロイド含有量は,経口避妊薬の発展とともに次第に減少してきた。そして現在では中用量ピルおよび低用量ピルという剤型になっている。その歴史の中で,より強力な治療法としてダナゾールやGnRHアゴニストが開発されてきたわけであるが,偽妊娠療法が治療効果こそ少ないが同時に副作用も少ないことを生かして,適切に使用されれば現在においても有効な治療法の一つとなる。
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研究方法
研究デザイン:Prospective, open trial
対象:
子宮内膜症と診断され(臨床子宮内膜症を含む)、月経困難症あるいは非月経時慢性骨盤痛(下腹部痛、腰痛、性交痛、排便痛など)を訴える患者に対して、本治療法の内容を説明した上でこれを希望した症例。
投与方法:
GnRHa注射剤を6ヶ月間投与後、翌月よりdanazol、中用量ピル、または一相性低用量ピルを投与した。薬剤の種類は、担当医と患者の協議により選択した。
評価方法:
・Visual analog scale (VAS)
・血清中CA-125
・経腟超音波断層法(卵巣チョコレート嚢胞径の計測)
・子宮内膜生検組織中 P450arom
偽妊娠療法の歴史
Kistner (1966)
 Norethynodrel + Mestranol (2.5 mg) “Pseudopregnancy”
Riva et al. (1961)  Norethynodrel + Mestranol (2.5 mg)
Andrews & Larsen (1974)
 Ethynodiol Diacetate (1 mg) + Mestranol (0.1 mg)
Kourides & Kistner (1968)
 Norgestrel (0.5 mg) + Ethynyl estradiol (0.05 mg)
Loudon NB, et al. (1977) Br Med J 2:487-490
  7-weeks regimen
Kornaat H, et al. (1993)  Contraception 45:119-127
de Voogd WS (1991)
 Contraception 44:107-112 13-weeks regimen
Kovacs GT, et al. (1994)  Br J Fam Plan 19:274-275
Barbieri RL (1989) Curr Probl Obstet Gynecol Fertil 12:6-13
 15-weeks regimen  “Mini-pseudopregnancy”

図24

成 績
登録症例 102
脱落症例 21
 治療方針の変更 10
 副作用による中止  3
 服薬忘れ、転院、来院せず等  8
評価可能症例 81 施行期間
 ダナゾール 34 (28.7±16.4 月)
 中用量ピル 35** (25.7±19.9 月)
 低用量ピル 12 (12.5± 7.7 月)
* 36.7±7.9歳、BMI 21.5±3.2 (Mean±SD)
**ダナゾールより変更 10例、
*低用量ピルより変更 3例を含む
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 今回の検討では,GnRHアゴニスト後の再発予防という観点からEP合剤を使用した。その結果,中用量ピルでは平均25ヶ月以上投与することができた。その間,自覚症状,CA-125値,卵巣チョコレート嚢胞の再発を抑制し続けた。一方,正所性子宮内膜のP450aromは再発現した。これはダナゾールと異なり,プロゲスチンにP450arom刺激効果があるためであると考えられる。しかし,実際に腹腔内病変が再発しているのかどうかは不明である。ダナゾールに比較して副作用は少なかった。一方,3ヶ月以上月経を止めることは難しく,投与し続けると破綻出血が起こる。そのため定期的に消退出血を起こす必要があることが難点であるが,この時の出血量や疼痛が強くなかったことが長期投与を可能にしている。
 低用量ピル群においても,自他覚症状を抑制しえた。しかし,症例数が少ないことと,結果的に比較的軽症例を割り付けていたというselection biasがかかったために,十分な効果判定はできなかった。副作用は少ないが,さらに頻繁に定期的な消退出血を起こす必要があることに留意しなければならない。
 全体として,ほぼ満足のいく維持効果が得られた。本治療法は,GnRHアゴニストによって得られる子宮内膜症の病態の改善,および月経痛や非月経時慢性骨盤痛などの自覚症状の抑制を最長数年間にわたって日常生活に支障がない程度に維持し,再発を高い確率で防ぐことが可能である。副作用のため脱落した症例は102例中3例と少なく,比較的安全性が高いと言える。
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 今回の検討では,維持療法の薬剤の割り付けはオープンで行い,無作為に割り付けられたものではなかったため,3群間の効果の単純な比較はできなかった。今後,より詳細でランダム化された検討と,進行期分類や深部病変の有無等による治療成績の差を検討する必要がある。これらの慎重な検討を積み重ねることにより,本治療法の有用性が確認されていくものと期待できる。

文  献
1) Kitawaki J, Ishihara H, Koshiba H, et al: Usefulness and limits of CA-125 in diagnosis of minimal and mild endometriosis without associated ovarian endometriomas. Hum Reprod.2005;1999-2003.
2)Kitawaki J et al. Detection of aromatase cytochrome P450 in endometrial biopsy specimens as a diagnostic test for endometriosis. Fertil Steril 1999;72:1100-1106
3)Kitawaki J et al. Endometriosis: the pathophysiology as an estrogen-dependent disease. J Steroid Biochem Mol Biol 2002;83:149-155
4) Ishihara H et al. Gonadotropin-releasing hormone agonist and danazol normalize aromatase cytochrome P450 expression in eutopic endometrium from women with endometriosis, adenomyosis, or leiomyomas. Fertil Steril 2003;79:735-742