「医療事故に引き続いて起こる医療紛争予防」
滋賀医科大学産科婦人科学教室
教授 野田 洋一 先生
周産期医療における医療事故・医事紛争防止
1)医療事故に関する基本的事項
医療事故とは
「疾病そのものではなく、医療を通じて発生した患者の傷害、合併症、偶発症、医薬品による副作用や医療材料・機器による不具合、不可抗力を含む」   国際的・学術的定義

インシデントと医療事故
●インシデントとは医療の過程で発生するすべての事象を包含する。
●医療事故とは医療側に過失があり、その結果、一定以上の傷害が患者にもたらされ、その過失と傷害の因果関係が明らかなものを言う(滋賀医科大学医学部附属病院)

インシデントはあらゆる場面で発生しうるもので、無くならない
「ヒトのもつ情報処理能力に限界があるためインシデント・医療事故は必ず起る」
ヒトは間違いを犯すもの
他院で発生した事故は当院でも必ず起こる

インシデントを予防するため
 絶えざる注意深い  観察 ・洞察 ・情報収集 ・QC活動
  研修による自己啓発 ・自己変革 ・システムの変更が必要である。
2)周産期医療を取り巻く事故・紛争発生の現状・・・症例提示と検討・・・
各科別対医師相対的訴訟発生率比較をみると、産婦人科が高い
2.45倍 産婦人科
2.37倍 外科
1.87倍 整形外科・形成外科
1.00倍 -----------全科平均
0.87倍 内科
0.49倍 小児科
1年間に1人の医師が医療訴訟に遭遇する可能性の相対値・・・平成15年度最高裁判所調べによると小児科の約5倍の訴訟が産婦人科で発生している

訴訟された産婦人科医療の内容
件数 比率%
妊娠初期のトラブル 8.5
妊娠合併症に伴うトラブル 6.4
分娩トラブル(母体) 10 21.3
分娩トラブル(児) 12 25.5
胎児・新生児のトラブル 19.1
婦人科診断のトラブル 4.3
婦人科治療のトラブル 8.5
47 100.0
(近畿産科婦人科学会常任編集委員会発行「産婦人科医事紛争」2001年)
3)医事紛争成立のメカニズム
重大事故が起ったら以下の手順で全病院挙げての努力が必要
1)全員が集まって患者さんの救命に全力を尽くす。院内関係者に連絡・通報。
2)ご家族・関係者に直ちに連絡。
3)ご家族に生じた事実を率直に伝える。
4)記録係を指名し、診療録を時系列で整備する。記録の改竄は決してしてはならない。
5)治療の過程を逐一、リアルタイムにご家族に説明。ご家族もケアーの対象となっている。
6)亡くなられた場合、解剖(病理・法医)をお願いし、死因解明に勤める。
7)後日、全ての治療経過・結果についてきっちりと最終的に説明する必要がある。
8)過誤性が無い場合は分かりやすい説明を診療録に基づいて行なう。

重大事故が起ったら医療機関の属性に従って各方面への報告が必要となる
大学本部  文部科学省  保健所  近畿厚生局  日本医療機能評価機構
日本産婦人科医会社会保険庁  警察  損保会社  マスコミ発表
4)今後の周産期医療のあり方
分娩の取り扱いはなぜ難しいか
1)取り扱う病態がヒトが生まれるという重大事。患者さんは高い水準の医療を期待している。
2)突如生じる出血などの緊急事態に対応するためのマンパワーを常備することが一般に困難。
3)他領域の医学の進歩が分娩取り扱い法の画期的改善につながらず、今なお経験がものを言う世界にとどまっている。
4)胎児の酸素化を非侵襲的かつ定量的に測定する方法がない。
分娩のもつこれらの特性を理解した上で、妊娠初期から分娩終了まで全ての情報をリアルタイムに伝える必要があることを強調したい。